掲載日:2026年8月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年8月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。
新宿3丁目のビルの一室にある6席のカレー店「CHIKYU MASALA(チキュウマサラ)」。「ここでしか食べられない料理」をモットーとするフードディレクターのエドワード・ヘイムス氏の自由な発想を、商業ベースに落とし込む小山朝之(おやま ともゆき)店長。店はもともと、関連会社のスナック業態からコロナ禍の雇用維持を目的に間借り営業で始まった。しかし想定以上の人気のため、カレー専門店へ転換。6席という制約の中で、店を成立させるよう、模索し続けている。小規模飲食店の「個性」をどう事業化するか。話を聞いた。
目次
カレーという枠に収まらない一皿

同店は2020年に開業。ホームページには“固定の店舗を持たないスタイル”とある。これはもともと関連会社が経営するスナックを間借りして始めた背景がある。コロナ禍でスナックが経営難に陥り、関連事業従業員の雇用維持も兼ねていた。カレーにしたのは別店舗で提供していたところ、好評だったためだ。
「あまりにも反響が良かったので定着して間借りのまま普通に店舗になった」とは、運営するearthgrace株式会社(アースグレイス)代表の佐々木威人(たけひと)氏。
エドワード氏はかつて、カメラマンとして世界中の料理店を撮影していた時期がある。
「世界を回って印象に残る食べ物って必ずあった。カレーの場合は合わせやすいんです。頭にインプットされた美味しいものを合わせる感じ。僕は海外のレストランで働いた経験の方が多く、“そこでしか食べられないもの”というのが常に頭の中にある。そうでないと(店は)なかなか成り立たないと思っています」(エドワード氏)
月1回のペースで月替わりメニューは変わる。
「(ネタ切れになることは)全然ないですよ。オペレーション的に作れないものもあります。たぶんカレーではないんです。もちろんインドのスタイルをベースにしてるけど、例えば中東とかアフリカってそんな変わんない。でも出来上がってくる料理はスパイスの調和が違うので、それを掛け合わせると面白いものができる。例えばバターチキンに、僕はイタリアのプッタネスカってスパゲティのソースを合わせたりする。カレー屋さんだったらまず出さないものだね」
感性を商品へと変える、もうひとりの料理人

「エドワードのレシピは、4、5人前のレシピなので、実際は大きな鍋で作るから加熱時間も変わってきます。そういった細かい調整をします」
小山店長はもともと高級イタリアンシェフとして20年近いキャリアを持つ。試作は一度でうまくいかず、3、4回調整する。ボツメニューもたくさんある。エドワード氏の感覚的な思いつきやアイデアに上手くチューニングし、商業ベースの形にするのは簡単なことではなさそうだ。それができるのも長年料理人として培った小山店長の技術ならでは。
「オーガニックやら高級食材は無理だよ、コストに合わないからと説得ばっかして嫌がられるのは僕ですね」と小山店長は苦笑いする。
6席の店を成立させるオペレーション

同店はもともとスナック物件のため、設備的にカレー専門店向けではない。そんな中、セントラルキッチンを活用し、最終工程のみ店舗で行うことで運営を成り立たせている。
「6席とはいえ、ワンオペなのでお客様を待たせられないし、10分以内には出したい。だからうちは盛り付けも決まっていて、一皿あたり何分かけるかも全部数字で出しているんです。一皿2分だったら×6皿で12分、単純にそんな感じ。セントラルキッチンで仕込みをして、なるべく小分けし、ほとんどスタンバイされているような状態にして、絶対その時間内に収まるように考えています」(小山店長)
仕込みは週3回程度。以前は誰でも仕込みができる仕組みを作ろうとしたこともあった。
「そうなると簡略化されて、まるで工場で作るみたいになる。それだとやっぱりもうちょっとしっかりみていきたいなということで…ここ最近は僕だけでやっている感じです」

カレー3種類を提供していた時もあったが回転率を考慮し、昼は2種類に整理。しかし夜の集客が弱かったため、夜限定メニューを開発した。
「ちょっとゴロっとした肉感と高級感のある夜カレーということで、あとはエドワードの妄想と空想で自由に組み立ててもらいます。ヴァンエピス仕立ての角煮ポークで、八角とか入れた台湾風ですが、赤ワインに漬け込んでいて、これはフランス料理の技法です」
今月から試験的に週末のみ夜営業を始めたところだ。
独自性を武器に、次の成長段階へ

月商は200万円程度。昨年は有名飲食サイトで“新宿ランチ1位”を獲得した。
「(反響が)すごかった。ほとんど8割がた新規客でした。でも並ばれると近隣のビジネスマンは帰られちゃう。そうすると今度リピーターが減ってしまうんです。だからそこに依存すると次にランキングが下がったら難しいですね」
値上げと値下げを同時進行
現在は、値上げと値下げを同時進行している。スペシャルセットとノーマルに分けて、追加オプション形式にし、ベースの価格帯を下げるようにした。
「やっぱり(ビジネスランチ需要で)2000円弱はそんなに来ないでしょう。たまにいらっしゃる方はスペシャル一択ですね。うちはシグネチャーでやっているので。もともとこっちだけでお客様を取り込もうと思ってたんですが、それだけだとなかなか難しいんだなと」
今後は移転してもっと広い店で運営したいと語る。
「キッチンが離れている状況は大変なので、普通に店内で調理して、全てがそこで済むようにはしたいと思っています。まだそこの説得感、納得感を持たせるための売上に至っていないので頑張っていきたいですね」(小山店長)
一方、エドワード氏は客単価1万円ほどのいわば“カレー懐石”をやってみたいようだ。
同店がこれからどのように変容していくか、楽しみだ。
(取材協力)
店舗名:「CHIKYU MASALA(チキュウマサラ)」
店長:小山 朝之
会社名:earthgrace株式会社
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿5-17-6 花園ビル2階SSF内
代表取締役:佐々木威人
HAMES FOOD LABO(ルビ:ヘイムス フード ラボ)
クリエイティブディレクター兼フードディレクター: エドワード・ヘイムス
(店舗情報)
席数:6席
坪数:5坪
客単価:1900円
原価率:35%
月商:200万円
家賃:15万円
取材・文:高山浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。





