【スマイラー127号・特派員飲食店取材】氷にも、人にもまっすぐに。十三「野口商店」が積み重ねた30年

店主の声

夏の風物詩、かき氷。近年ではフルーツを山盛り乗せたり、氷にかけたクリームを炙(あぶ)ったりと、「SNS映え」を意識したかき氷が増えている。それに伴い価格も上がり、一杯1200円はザラだ。そうしたブームの中、大阪の飲み屋街のはずれで、愛され続ける「十三の氷屋 野口商店」。一杯500円〜800円で提供されるかき氷に使うのは、時間をかけて作られた上質な氷と、さまざまな味のシロップ。一見シンプルなかき氷だが、野口商店が支持されてきた背景には、氷そのものの質と、店主と客との独特な距離感がある。

街からかき氷が消えた

店舗外観

野口商店は、創業78年の老舗氷屋。現店主の野口智也さんは3代目として、店を切り盛りしている。しかし、かき氷屋としての営業は智也さんが始めて、今年で丁度30年を迎えたところだ。きっかけは近所の和菓子屋さんが閉店してしまい、街からかき氷が消えたことだそう。
「この和菓子屋さんはうちから氷を買ってくれてたし、とても美味しかったんです。閉店してすぐは淋しいとだけ思っていたんですが、『あれ!?かき氷、ないやん!』と気が付きました」と。
その後、お祭りなどでスポット的にかき氷を提供すると想像以上に売れ、レンタル機材にも余裕があったことから、夏限定のかき氷屋をオープンする。

100円のかき氷と、近所の子どもたち。「店主と、お客さん」「大人と、子ども」の枠を超えて

当時の客層はヤンチャそうな小中学生がメイン。というのもその時、野口さんは髪をドレッドスタイルにし、よく店先で煙草を吸っていたそう。
「親から『野口商店には、行ってはいけません!』って言われている子が多かったと思います。実際、『行きたかったんですけど…』と大人になってからそう言って来てくれる人も多いですね」と語る。
当時はいちご・メロン・レモン・ブルーハワイ・みぞれの5種類の味を1杯100円で提供していた。
「1杯100円だし、みんな『今日は何杯食べたか』を競ったりしていましたね。僕も彼らに対して『もう終わりか?』など友だちのように煽ったりしていました」と当時を振り返る。
「ヤンチャだけど、やっぱり子どもは素直なんですよ」
子ども相手の商売で、「また来てな」と声を掛けることだけは欠かさなかったという。
「強面の僕でもそう言うと、子どもは約束を守るみたいに、必ずまた来てくれるんですよね」と愛おしそうに教えてくれた。「配達先に店によく来てくれる子がいて、『君、ここの子なんかー!』とか。僕にゲームのソフトを貸してくれたり、そういうのがずっと続いて、僕の結婚式にも来てくれました」と嬉しそうだ。

氷屋だからこその拘りと30種類を超える豊富なフレーバー

一番人気のみるくいちご(800円)

コロナ禍、全氷連の「氷屋マイスター制度」に、筆記と実技試験を課すゴールドクラスが新設された。野口さんは難関を突破し、初代ゴールド資格所有者となった。
「当時、東日本に1人、西日本に1人しか筆記試験の合格者がいなくて。暫くは西日本唯一のゴールド資格でしたね」とにんまり。
野口商店では氷屋純氷のみを扱う。氷屋純氷とはアイス缶製法で48時間以上かけてゆっくり凍らせた、純度の高い氷だ。かき氷には三重県の「中勢製氷冷蔵」が72時間かけて作る、伊勢神宮奉納氷「美里氷室」を使用している。
「氷は時間をかけてゆっくり凍らせるほど結晶が大きくなり、溶けていく速度も遅くなります。だからうちの氷は溶けにくい。でも、かき氷はふわっと溶ける方がアイスクリーム頭痛(かき氷を食べた時に感じるキーンとした痛み)を感じにくいので、薄く削って調整しています。美里氷室は密度も純度も高いから、かき氷にした時の軽さが段違いだし、溶けても水特有の味がしなくて、美味しいんです」と教えてくれた。

奥さんイチオシの紅いも(500円)


現在は30種類を超えるフレーバーを揃える。「自分の好きな味や美味しいと思ったものを追加していったらこうなってました」と言う。一番人気は「みるくいちご」で、売り切れる日も多い。濃厚でとろりとしたシロップと、ふわふわの氷の相性は抜群だ。

真っ赤なりんご&紅茶(600円)

2種類の味を楽しめるハーフ&ハーフや、アイスクリーム、白玉、おいり(香川のあられ)などのトッピングで、楽しみ方は無限に広がる。

人が人を呼ぶ、野口商店の30年

店主・野口さん

趣味を通じて、DA PUMP(ダ パンプ)のTOMO(トモ)さん、YORI(ヨリ)さんと親交を深めた野口さん。4年前、TOMOさんがYouTubeで野口商店を紹介したことをきっかけに、店はDA PUMPファンの聖地となった。今ではメンバーカラーや、動画で紹介されたフレーバーを注文するファンが多く訪れる。
「一人の存在が誰かをこんなにもエネルギッシュにするんだなぁと驚きましたね」と笑顔だ。
かつて100円のかき氷を食べに通っていた小中学生も、今ではすっかり大人になった。「昔来てくれていた子が、今度は自分の子どもを連れて来てくれるんですよ」と嬉しそうに話す。
近所の子どもたちに「また来てな」と声を掛け続けた野口さん。その言葉通り、30年経った今も「また来る」は続いている。上質な氷と、それをおいしく届ける技術。そして、年齢や立場にかかわらず、人と軽やかに付き合う店主の人柄。その積み重ねが、野口商店の30年をつくってきたのだろう。


(取材協力)
店舗名:十三の氷屋 野口商店
住所:〒532-0023 大阪府大阪市淀川区十三東4-4-1
店主:野口智也


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