【スマイラー126号・専門店特集】カルボナーラ専門店が少ない、本当の理由

店主の声

掲載日:2026年9月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年9月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

神楽坂の裏道に店を構える「カルボナーラ専門店HASEGAWA(ハセガワ)」。カルボナーラ専門店は「ありそうで、ほとんどない」業態だ。しかし、珍しいから成功したわけではない。実際は開業後に同様の専門店も現れたが、現在はほとんど見かけない。その理由は、需要だけでは説明できない。背景には、徹底したクオリティの維持と、属人的な技術がある。カルボナーラ専門店が少ない理由から、専門店経営の難しさと強さを探る。

カルボナーラ専門店が生まれるまで

店舗外観

同店は、長谷川浩平氏が吉祥寺で、2018年に日曜日限定でカルボナーラ専門店を営業したのが始まりだ。
「いろんなカルボナーラをまかないで作るくらい好きでした。いつかこれ1本で店をやりたいとどっか思っていて、最終的にチャレンジしてみようと。
でもいきなりお店を構えるのではなく、ちょっと試験的に1年ほどやってみた」と語る。
運よく武蔵野市が発信するメディアに取り上げられ、そこから口コミで広がる。当時、ランチタイムに50人分の食材を用意し、毎回完売した。手応えを感じ、2年後の20年に満を持して、「カルボナーラ専門店HASEGAWA」を開業。
カルボナーラ一択にすることについて、「尖っている分、目立ちやすいんで、話題にしてもらえますし、自分で集客するというよりSNSでお客さんがあげてくれることが多い」とその利点について分析する。

専門店の壁は、火入れ1秒差の「職人技」

全体の約50%が注文する『王道ベーコンのカルボナーラ』

カルボナーラ専門店はありそうだが都内でも見かけない。長谷川氏によると同店を開業した直後に類似する業態の店が何軒か現れたが、今はないようだ。
「今でもどこかに(同業態店が)あるみたいです。毎日、卵を200個くらい、チーズは4キロぐらい使うのですが、卵とチーズは生ものというか、そんなに長持ちするものじゃないし、冷蔵庫のスペースが足りなかったりします。あとはオペレーションの部分が意外と専門店が増えない理由ですかね」

店舗内観


レシピは完全なマニュアル化が難しく、属人性が高い。
「こうやってこうやったら完成、みたいに(マニュアル化)できない。卵とチーズのソースを入れて、そこから火入れするところが一番難しくて、やっぱアルバイトの子に教えてすぐできるようにはならないので、その辺が難しいですね」
同店のようにクオリティを追求すると「結構きつい」業態だと長谷川氏は考えている。
「ソース作り自体は簡単です。フライパンでベーコンを焼いて、麺を入れてその後、火入れしながら塩分をつけて最後にソースを入れますが、そこから濃度を見ながらの火入れが、ほんの1秒でもやり過ぎるとベタベタしたパスタになってしまう。少ないと(和出汁が入っているソースのため)シャバシャバになる。火入れの見極めが大変なんです」

品質を守るほど、難しくなる人材育成

長谷川氏のこだわりについて書いた説明書き

人材の育成に時間をかけている同店。調理経験者でも少なくとも厨房に立てるまで3か月はかかるという。
「やはりプロの料理人を雇ったり、育てたりしなければいけない。マニュアルより人の教育になっちゃう。こういう場合はこうして、みたいな」
3人いる社員は全員、同店のカルボナーラを調理できる技術を身につけ、長谷川氏が不在でも店が成り立つ体制にしている。長谷川氏は人手が足りない時のみ補助で入る。
昨今の原価高に対し、「チーズが高騰してもじゃあ別の食材で、と変えられないのがきつい」とため息を漏らす。
「食材を絞っている分、卵とチーズは代替えできない。だからといってクオリティは下げたくないし、価格もなるべく上げたくない。なので、例えば『レモネード』を手作りにして、原価を抑える。そんな感じでドリンクや前菜など、変えられるものをいろいろ変えていった感じですね」


平日は周辺の会社員がランチや会社帰りの呑み利用で来店する。週末はほぼ目的来店客だ。客層は6割が女性で、リピーターは2割程度。
旬の食材を取り入れた期間限定メニューは、長谷川氏が考案しているが、「新しい限定メニューを投稿したら必ず来て、インスタに上げてくれるお客さんもいます」と限定メニューでリピーターの心もしっかり掴んでいる。

やっぱりカルボナーラが好き。

神楽坂本店の経営は現在、順調だ。その背景には長年かけて磨き上げた看板商品の存在がある。現在のレシピは開発に5年近い歳月をかけて作った、ほぼ完成形だ。他店のものを食べながら、自分で何度も作っては試食した、その数は1500皿に上る。
一般的なイタリアンでは数あるメニューの一つであるカルボナーラが、店そのものの価値となっている。店を知らなくとも認知度の高い商品名と、長谷川氏が創り上げた味、専門店という希少性が組み合わさってブランドを形成している。限定メニューを出せばSNS投稿を続ける固定ファンもいる。

ブランドの強さと次の課題

一方で、確立したブランド価値を2店舗目でも維持できるかが課題だ。
「多店舗展開は難しいですよね。もっとマニュアル化して誰でも作れるようにしないと。まだこだわってやってしまっているところもあるので」
2025年には吉祥寺に2号店を出店した。同じ価格帯で出しても、吉祥寺店では「高い」という評価がある。将来的には、さらに店舗を増やしたい気持ちはあるが、2号店の売上を安定させてから考えたいと語る。
幼い頃からカルボナーラが大好きで今もよく食べるという長谷川氏。屋号に自身の苗字を冠していることからも、長谷川氏のカルボナーラに向きあう強い覚悟がうかがえる。業態は真似できても、品質を守り続ける姿勢までは簡単に真似できない。


(取材協力)
会社名:株式会社 H.SR(ルビ:エイチエスアール)
代表取締役 社長:長谷川浩平
住所:〒162-0825 東京都新宿区神楽坂3-6 金井ビルB1F

(店舗情報)
客数:24席
坪数:11坪
客単価:1800円(昼)、3300円(夜)
原価率:27%
月商:550万円(平月)、 600万円(繁盛月)
人件費率:27%
家賃比率:7%


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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