2026年度の最低賃金は、全国的に大幅な引き上げとなりました。厚生労働省が公表した改定額の全国加重平均は1,177円で、前年度から56円上昇しています。人件費の負担が増えるなか、飲食店では価格改定や業務効率化など、経営への影響を抑える取り組みが求められています。
飲食店ドットコムが2026年9月に実施した調査では、最低賃金の引き上げについて、飲食店の52.4%が「経営に影響がある」と回答しました。原材料費や光熱費の上昇も続くなか、賃上げ分をどのように吸収するかは、多くの店舗にとって重要な課題です。
この記事では、2026年度の最低賃金改定の概要や飲食店への影響を整理し、人件費の増加を抑えるための具体的な対策を紹介します。
目次
2026年度の最低賃金はいくらに引き上げられた?

2026年度の地域別最低賃金は、全国47都道府県で引き上げられました。厚生労働省が2026年9月に公表した答申によると、引き上げ額は54円から65円で、全国加重平均は1,177円です。
前年度の全国加重平均は1,121円だったため、56円の引き上げとなります。
| 項目 | 2026年度の内容 |
|---|---|
| 全国加重平均 | 1,177円 |
| 前年度の全国加重平均 | 1,121円 |
| 全国加重平均の引き上げ額 | 56円 |
| 都道府県別の引き上げ額 | 54円〜65円 |
| 対象地域 | 全国47都道府県 |
※全国加重平均は、都道府県ごとの労働者数を考慮した平均額です。すべての地域で最低賃金が1,177円になるわけではありません。
最低賃金の発効日は地域によって異なる
最低賃金は、全国一律の金額ではなく、都道府県ごとに定められています。また、2026年度の改定額は、地域によって発効日が異なります。
厚生労働省の公表資料では、2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定とされています。そのため、店舗が所在する地域の新しい最低賃金と発効日を確認することが必要です。
例えば、東京都は1,280円、神奈川県は1,279円、埼玉県は1,196円となっています。神奈川県では2026年10月1日から新しい金額が適用されています。
飲食店では、アルバイトやパートの時給が新しい最低賃金を下回らないよう、給与設定や雇用契約を確認しましょう。
アルバイトやパートも最低賃金の対象
最低賃金は、正社員だけでなく、アルバイトやパートなど雇用形態にかかわらず適用されます。
飲食店では、ホールスタッフやキッチンスタッフ、洗い場担当、仕込み担当など、さまざまな職種でパート・アルバイトを雇用しています。時給制のスタッフだけでなく、月給制の従業員についても、最低賃金を下回っていないか確認が必要です。
特に注意したいのが、基本給と各種手当の扱いです。最低賃金との比較では、通勤手当や家族手当、時間外割増賃金など、算入されない賃金があります。単純に給与の総額を労働時間で割るのではなく、対象となる賃金を確認して計算しましょう。
飲食店の52.4%が最低賃金引き上げの影響を懸念

2026年度の最低賃金改定は、飲食店経営にも影響を及ぼしています。
飲食店ドットコムが会員の飲食店経営者・運営者235人を対象に、2026年9月10日から14日に実施したアンケートでは、最低賃金の引き上げについて、52.4%が「経営に影響がある」と回答しました。
内訳は「やや影響が大きく、追加の施策が必要な水準である」が37.9%、「非常に影響が大きく、経営継続が危ぶまれる水準である」が14.5%です。
時給を引き上げる予定の店舗は約半数
同調査では、最低賃金の改定を受けた時給の見直しについても質問しています。
「最低賃金が引き上がる額分だけ、そのまま引き上げる予定」と回答した店舗は47.2%でした。一方、すでに新しい最低賃金を上回っているため、時給を据え置く予定の店舗も35.3%ありました。
もともと最低賃金に近い時給でスタッフを雇用していた店舗では、今回の改定に合わせて給与を見直す必要があります。
また、最低賃金を上回る時給を設定している店舗でも、採用競争や既存スタッフとの賃金バランスを考えると、最低賃金の引き上げ分だけで対応できるとは限りません。
最低賃金の引き上げは人件費以外にも影響する
最低賃金の上昇による影響は、単純な時給の増加だけではありません。
例えば、これまで時給1,100円で働いていたスタッフと、経験を積んだ時給1,200円のスタッフがいたとします。最低賃金の引き上げによって新人スタッフの時給を1,170円に変更した場合、経験者との賃金差は100円から30円に縮まります。
この状態では、経験者から待遇の見直しを求められる可能性があります。新人だけでなく、既存スタッフの時給も調整すると、人件費の増加幅はさらに大きくなります。
飲食店では、次のような点にも注意が必要です。
・新人スタッフと経験者の時給差が小さくなる
・リーダーや責任者の給与とのバランスが崩れる
・採用時の提示時給を見直す必要が生じる
・社会保険料などの事業主負担も増える場合がある
・人件費の増加によって利益率が低下する
賃金改定を行う際は、最低賃金を満たすだけでなく、職務内容や経験年数に応じた給与体系も確認することが重要です。決めておくことが大切です。
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飲食店が人件費の増加を吸収する7つの対策
最低賃金の引き上げに対応するには、単に人員を減らすのではなく、売上と利益を確保しながら業務全体を見直すことが大切です。
ここでは、飲食店で取り組みやすい7つの対策を紹介します。
1. メニュー価格を見直して利益を確保する
人件費の増加を吸収する方法の一つが、メニュー価格の見直しです。
飲食店ドットコムの調査では、賃上げに向けた対策を実施している、または検討している店舗に具体的な取り組みを尋ねたところ、「商品の価格変更(値上げ)」が84.8%で最多となりました。
ただし、すべての商品を一律に値上げすると、価格に敏感な顧客が離れる可能性があります。原材料費や調理にかかる手間、注文数などを確認し、商品ごとに価格を見直すことが重要です。
例えば、仕込みに時間がかかるメニューや、原価率が高いにもかかわらず注文数が多い商品は、利益を圧迫している可能性があります。原価と作業時間の両方を確認し、適正な価格に調整しましょう。
2. 原材料の仕入れ先や調達方法を見直す
食材費の上昇も続いているため、仕入れの見直しは人件費対策と並行して取り組みたい項目です。
調査でも、賃上げに向けた対策として「仕入先の見直し」が挙げられています。
具体的には、次のような方法があります。
・複数の仕入れ先から価格や条件を比較する
・使用頻度の高い食材はまとめて発注する
・旬の食材や価格が安定した食材を取り入れる
・規格外野菜などを活用する
・食材の廃棄量を記録して発注数を調整する
ただし、価格だけで仕入れ先を変更すると、品質や納品の安定性に影響する場合があります。食材の品質、配送頻度、最低発注数量なども含めて判断しましょう。
3. 調理工程を標準化して作業時間を短縮する
調理工程を見直すことも、人件費の増加を抑える方法です。
飲食店では、スタッフの経験や技術によって調理時間に差が出ることがあります。レシピや仕込み手順が統一されていないと、作業に時間がかかるだけでなく、料理の品質にもばらつきが生じます。
そこで、次のような取り組みが考えられます。
・料理ごとのレシピや分量を統一する
・仕込みの手順と作業時間を決める
・食材のカットサイズや盛り付け方法を統一する
・調理器具や食材の保管場所を整理する
・新人スタッフ向けの作業マニュアルを作成する
作業手順を標準化すると、経験の浅いスタッフでも業務を進めやすくなります。教育時間の短縮にもつながり、特定のスタッフに業務が集中する状況を改善しやすくなります。
4. 厨房機器や配膳システムを活用する
設備投資によって作業時間を短縮する方法もあります。
例えば、スチームコンベクションオーブンを導入すれば、焼く・蒸す・煮るといった調理工程を効率化できる場合があります。食器洗浄機を活用すれば、洗い場の作業負担を軽減できます。
また、セルフオーダー端末やモバイルオーダーを導入すると、注文受付にかかる時間を削減できる可能性があります。
| 導入設備・システム | 期待できる効果 |
|---|---|
| 食器洗浄機 | 洗い場の作業負担を軽減 |
| スチームコンベクションオーブン | 加熱調理の効率化 |
| 自動フライヤー | 揚げ物の調理作業を効率化 |
| セルフオーダー端末 | 注文受付の負担を軽減 |
| モバイルオーダー | 注文業務や会計業務を効率化 |
| POSレジ | 売上・商品別の販売状況を管理 |
設備を導入する際は、購入費用だけでなく、設置スペースや電気・ガスの使用量、メンテナンス費用も確認しましょう。導入によって削減できる作業時間と費用を比較し、投資に見合う効果が得られるか検討することが大切です。
5. シフトを見直して時間帯ごとの人員を最適化する
飲食店の人件費は、スタッフの人数だけでなく、勤務時間の組み方によっても変わります。
例えば、ランチタイムに来店が集中する店舗では、開店から閉店まで同じ人数を配置する必要はありません。来店数や注文数を時間帯ごとに確認し、忙しい時間に人員を集中させる方法が考えられます。
具体的には、次のような方法があります。
・曜日別・時間帯別の売上を確認する
・ランチやディナーのピークに合わせてシフトを組む
・アイドルタイムの配置人数を調整する
・仕込みや清掃を来店の少ない時間帯に行う
・予約状況やイベントに合わせて人員を調整する
ただし、必要以上に人員を減らすと、料理の提供遅れや接客品質の低下につながります。労働時間や休憩時間などのルールを守りながら、業務量に合った配置を考えましょう。
6. 営業時間や営業日を見直す
調査では、賃上げに向けた対策として「営業時間の変更」も挙げられています。
来店客が少ない時間帯まで営業を続けている場合、営業時間を短縮することで人件費や光熱費を抑えられる可能性があります。
例えば、平日の午後に来店がほとんどない店舗なら、ランチ営業とディナー営業の間を休業時間にする方法があります。また、売上が少ない曜日を定休日に変更することも選択肢の一つです。
営業時間を見直す際は、売上だけでなく、時間帯ごとの粗利益や人件費を比較しましょう。売上が少なくても利益が確保できている時間帯を安易に削ると、かえって収益が減る可能性があります。
7. スタッフの多能工化で業務の偏りを減らす
スタッフが担当できる業務を増やすことも、店舗運営の効率化につながります。
例えば、ホールスタッフが簡単なドリンク作成や洗い場の作業を担当できるようにしたり、キッチンスタッフが仕込みと盛り付けの両方を担当できるようにしたりする方法があります。
特定の業務を一人のスタッフしか担当できない状態では、欠勤や繁忙時に対応しにくくなります。複数のスタッフが複数の業務を担当できれば、状況に応じて人員を配置しやすくなります。
ただし、担当業務を増やす際は、十分な教育時間を確保し、業務内容や責任に見合った待遇を検討することも必要です。
最低賃金の引き上げに活用できる助成金・支援制度

最低賃金の引き上げに対応する飲食店は、国や自治体の支援制度を活用できる場合があります。
設備投資や業務効率化に取り組む場合は、対象となる助成金や補助金がないか確認しましょう。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資などを行った中小企業・小規模事業者を支援する制度です。
飲食店の場合、厨房機器や業務効率化に関係する設備などが対象となる可能性があります。ただし、設備の種類や導入目的、賃金引き上げの条件などによって対象可否が異なります。
申請を検討する際は、購入や契約を進める前に、最新の公募要領や申請条件を確認しましょう。
そのほかの賃上げ支援策
業務改善助成金以外にも、中小企業庁では賃上げや最低賃金への対応に関する支援策を案内しています。
例えば、IT導入や設備投資、販路開拓などを支援する補助金、賃上げ促進税制、専門家への経営相談などがあります。
制度によって対象となる事業者や経費、申請期間が異なるため、店舗の状況に合ったものを選ぶことが重要です。
最低賃金の引き上げに備えて確認したいチェックリスト
最低賃金の改定に対応する際は、給与の見直しだけでなく、店舗運営全体を確認しましょう。
・店舗所在地の新しい最低賃金と発効日を確認した
・アルバイトやパートの時給を確認した
・月給制スタッフの賃金も確認した
・新人と経験者の時給バランスを見直した
・賃上げ後の人件費を試算した
・商品ごとの原価率と利益額を確認した
・価格改定が必要なメニューを洗い出した
・仕入れ先や食材の発注方法を見直した
・仕込みや調理工程の無駄を確認した
・時間帯別の売上と人員配置を比較した
・設備投資や助成金の活用を検討した
最低賃金の引き上げは一度の対応で終わるものではありません。今後も賃金水準が変化する可能性を考え、定期的に人件費と利益の状況を確認することが大切です。
まとめ
2026年度の最低賃金は、全国加重平均で1,177円となり、前年度から56円引き上げられました。飲食店ドットコムの調査では、飲食店の52.4%が経営への影響を懸念しており、人件費の増加は店舗運営における大きな課題となっています。
人件費の増加を吸収するには、メニュー価格の見直しや仕入れ先の変更だけでなく、調理工程の標準化、厨房機器の活用、シフトの最適化、営業時間の見直しなどを組み合わせることが重要です。
また、業務改善助成金などの支援制度を活用できれば、設備投資による業務効率化を進めやすくなる場合があります。
単純に人員を減らすのではなく、スタッフが働きやすい環境と店舗の利益を両立できる仕組みを整えることが、今後の最低賃金引き上げに備えるうえで重要です。

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