【スマイラー126号・専門店特集】当たり前過ぎて気づかない、世界に誇れる日本の“たまご”

店主の声

掲載日:2026年9月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年9月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

日本人なら誰もが一度は口にしたことがある「卵かけご飯(TKG)」。生卵を日常的に食べる文化が世界でも珍しいことを意識する人は多くない。その背景には、生食(なましょく)を可能にする日本ならではの衛生管理や流通技術がある。表参道の駅近くにある、TKG専門店「たまごぐらし」は、上野貴史氏が監修。ブランド卵の食べ比べで、奥深い卵の世界を体験できる店だ。日本の卵文化を世界へ発信しようとする上野氏に、その可能性を聞いた。

日本人が知らない「卵」の価値


上野氏は130種類近いブランド卵を販売する店を経営。もとはコロナ禍で売れなくなった余剰在庫を抱えたブランド卵農家の救済策として始めた。一方で、卵かけご飯(以下、TKG)の魅力を追求し発信する一般社団法人「たまごかけごはん研究所」(東京都・文京区)を運営する卵の専門家だ。
卵に魅せられた理由について、「もともと料理人をやっていて、得意料理は何と聞かれると卵料理と答えていました。卵の栄養価のすごさも知っていたので、卵で何かやりたいというのはずっとありました。卵は一番、作り手の知識と技術で表情が変わる食材なんです。独立し、卵の生食文化が日本独自のものだと知って、これを世界に広げるのが僕の使命だと思いましたね」と上野氏。

日常食が「異次元の味わい」に変わる体験

表参道ビュー。夜はサブスク制バーだ

同店のオーナーの本業は中堅IT企業だ。夜にバーを経営していた物件の二毛作ビジネスとして上野氏と連携して始めた。なぜTKGだったのか。
「IT事業以外の世界で戦える日本の強いものを検索したら、食・アニメ・ゲーム・アダルトだったようで。食はいけるかもしれないとなって、世界にまだ出ていない日本らしい食べ物は何か考えて、『卵かけご飯』だということでうちに問い合わせがきたのがきっかけです」
複数のブランド卵の食べ比べが過去に前例が無さそうなのも勝算があった。
「何がどう違って美味しいかまで言える人がほとんどいらっしゃらなくて、その層にめちゃくちゃ刺さりましたね」
TKG専用醤油と硬めに炊いたご飯と卵を上野氏が考案した方法で食べる。氏が推す王道スタイルは、醤油をかけて混ぜたご飯の上に溶き卵をかけて食べる、通称「Sunrise(サンライズ)(日の出)」。


「醤油ご飯の“夜空”に溶き卵の“朝日”が広がるから『サンライズ』です」と上野氏。
醤油ご飯にすることで米の外側に醤油の層ができるため、一口目に卵本来の味を味わえるという。
「(醤油とご飯と卵を同時に混ぜた一般的なものと)仕上がりの見た目は同じですが味の感じ方が違うんです。
うちの醤油と卵で食べると“向こう側”に行けます(笑)」

TKGをビジネスに変える仕組み

店舗内観

上野氏が設立した「たまごかけごはん研究所」公式店舗としてブランド卵の食べ比べができるビジネスモデルをオーナー企業と開発し、3年間で100店舗のライセンス店を目指している。1号店はすでに行列店となり、同店は2号店だ。
高級ブランド卵の価値を確信した背景にはコロナ禍の駅ナカ販売経験がある。催事スペースでブランド卵を1個100円前後で販売したところ、1日150万円近い売上が出た。
「非日常を味わう価格帯としては最安だったんでしょう」
池袋駅では1日7000個ほど売れ、小学生から高齢者まで幅広い層に支持された。

基本のセット。ブランド卵が2個選べる


同店の客層は若い女性が中心で、リピーターも多い。
「表参道を歩いている人たちがそのまま入っている感じです。おばんざいとサラダもついてくるので、ランチとして普通に優秀なのと、誰かを連れてくるときの話題性ですかね」
基本セットの『たまごサラダ』は生食期限が近づいたブランド卵を加熱調理して使用する。これによりフードロスゼロの運営を実現している。
TKG専門店の開業に最適な条件は路面店・駅近・人の往来が激しいエリアなどだ。
「いろんな卵を仕入れるのでお持ち帰りで買うこともできます。飲食の売上に物販の売上がついてきます。
これが駅近の路面店なら、店頭販売の受け渡し窓さえあれば、夕方に卵だけ買って帰る人の売上が上がります。TKGは基本、朝昼需要なので、朝から営業しても売上が立つし、夕方以降は物販の売上が上がるという構造です」

日本の卵文化を世界へ

卵はテイクアウトもできる


日本にブランド卵は現在1700種類ほどある。その中から同店で扱うものを選ぶ基準は、味と“生産者の熱量”だ。
「この卵は後世に残したい卵だと我々が思った卵しか取り扱わないですね」
通販など消費者と直接つながる仕組みづくりも支える。
「僕らは生産者の支援と広告宣伝も兼ねていて、いわば卵の広告代理店なんです」
日本で卵の生食が始まったのは江戸時代末期からだ。衛生管理技術と物流の冷蔵技術において日本は「圧倒的に世界一」だと上野氏は力説する。
「どんな餌を与えたら美味しい生卵ができるか170年ぐらい研究し続けています。卵の成分の約75%は水分だといえばわかってもらえますかね」
鶏に与える餌だけでなく、水も日本の卵の品質を支える重要な要素といえる。
一方で、卵は二国間協定が締結されていないと輸出できない。海外では生食文化がないため、生食できる流通システムも整っていない。
「日本人は身近になり過ぎて(生食できる卵の価値に)誰も気づいていない。まずは、“卵リテラシー”を高めたい。
卵リテラシーが上がると日本の卵ってすごいんだ、じゃあこれは世界に持っていきたいとなるので、生産者も消費者も同じベクトルに向いてから一気に輸出しようと思ってその準備活動をしています」


(取材協力)
一般社団法人 日本たまごかけごはん研究所 代表理事 兼 株式会社八紘 
代表取締役:上野貴史
住所:〒113-0021 東京都文京区本駒込5-72-1 ファインライフ本駒込101-1

(店舗情報)
店名:たまごぐらし
住所:東京都港区南青山3丁目18-19 FESTAE表参道ビル 本館5階
席数:20席
坪数:20坪
原価率:35%
月商:約350万円
人件費率:30%
家賃比率:6%


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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