【スマイラー126号・専門店特集】脇役だった味噌汁を、主役に変える。味噌汁専門店 MISOJYU(ミソジュウ)

店主の声

「MISOJYU(ミソジュウ)」は、浅草・雷門通の裏通りに店を構える。日本人にとって身近な味噌汁に、日本と海外双方の視点を取り入れて再構築した同店。現在、客層の8割が日本人だ。当初、代表の佐々木氏は日本文化を発信する場として浅草の地を選び、最終的に味噌汁専門店という形に行き着いた。発想のきっかけは、浅草で感じた「朝食を食べる場所の少なさ」。エドワード氏は、伝統食の味噌汁に和と洋の要素を取り入れ、当たり前の食を新しい体験に変えた。その経緯を聞き、飲食店づくりのヒントを探る。

浅草 × 朝食需要 × 発酵= 味噌汁専門店

佐々木社長

MISOJYU 浅草本店は2018年に開業し、今年9年目。当初から計画したわけではなく、物件ありきの状態から偶発的に生まれた。経営する株式会社SSFホールディングス代表佐々木威人(たけひと)氏は、「お味噌汁も作ったことがなく、料理人のあてもなかった」と語る。
「最初は海外でも通用するようなカルチャー事業がしたいと考えていたんです。メディアに取り上げられ、多くの人が体験できるような場所はどこか1年ぐらい調べて、たまたま今のテナントが見つかりました」(佐々木氏)
物件を探し回っているうちに浅草エリアに朝食が食べられる店が少ないことに気付く。
「みんなコーヒーやハンバーガーのチェーン店に行くんですよ。浅草なのにおかしいな、って。そういう話から、日本人が当たり前に知っているお味噌汁が出てきた感じです。物件が浅草じゃなかったら朝食の発想もなかったでしょうね」

割安な朝ごはんセット。お味噌汁の具材はありあわせの食材を有効活用


同時期、エドワード氏と「まるで引き合わせられたかのように」知り合ったという。そこから誕生秘話が始まる。
「その頃、世界的にプロバイオティクス(発酵食品)、いわゆる発酵・菌の作用に注目が集まっていて、“発酵”が話し合いのキーワードに上がって、日本の誇る発酵文化の味噌汁が出てきた。500年間、(味噌汁は)ずっと脇役だったじゃないですか。それをメインディッシュにしようって盛り上がったんですよ」(エドワード氏)

味噌汁を料理として再構築する

エドワード氏


エドワード氏は日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれ、幼少期は日本で育ち、米国で料理人として働いた経験もある。そんなエドワード氏が、ブランドディレクターとして初めに取り組んだのは、商品の開発だった。
「やっぱりメインディッシュってなると具材を大きくするとか、あれこれ考えなきゃいけない。当時、海外から来る人もすごく多かった。味噌汁の体験がない人に日本の伝統的な味噌汁を出してもなかなか難しい。僕はおふくろの“手前味噌”で育ったんで、味噌汁は完全にDNAにインプットされているけど…。なので、ポトフ調の出汁や、クリーミーなクラムチャウダーのようにアレンジして(外国人が入りやすい)入り口をつくったんです」(エドワード氏)
プロデュースのコアな部分に「世界中の人に味わってもらいたい」があった。しかし、あくまでも日本人にも満足される味を目指した。
「うちは出汁も二層、三層出汁と言って、和風出汁+鶏ガラ出汁とか、洋風を合わせたりするんですよ。そういうのって味噌汁をスープとして考えれば、普通にあり得るじゃないですか。あるイベントで『味噌汁は500年変わっていない』って言われた時に、スゴイと思ったけど、もうそろそろ変えてみてもいいんじゃないかと思って(笑)」

驚くべき味噌の「包容力」

同店の味噌汁は一見、別の料理に見えなくもない。エドワード氏は、商品開発の過程で発見したことがある。味噌の、変化を受け止められる“包容力”と“強さ”だ。
「どんなに洋風なアレンジをしても味噌汁として成り立つんです。味噌はちゃんとそこにある。味噌の防御力の強さというか。だからこそ文化なのかな。味噌って思った以上に、すごいなって思った。そこはみんなに伝えたい」(エドワード氏)
「どんないじり方をしても味噌汁なんです」(佐々木氏)

こだわりを利益につなげる試行錯誤

浅草店舗外観。二階建ての一軒家だ

同店で使用する味噌は島根の山深い地で製造されている「やさかみそ」だ。熱処理を行わない“生味噌”のため、酵素や酵母が生き、風味が豊か。中でも白味噌に惚れ込んだ。
「(味を)試したときにすごく“塩梅”が良かった。白味噌は豆乳とかに一番合わせやすくて最初は京都の西京味噌にしようと思っていたけど、これ(やさかみそ)でもいけると思った」とエドワード氏。

おにぎりに使用するお米はオリジナルブレンド米だ


味噌だけでなく、米や豆腐など食材は全て有機のものを取り入れている。日本でオーガニックはあまり定着していないなか、開業当初は食材の産地までこだわり過ぎたようだ
「エディさん(エドワード氏)に、(細かいことを気にせず」いいものを作ってくれって言ったら原価50%とかとんでもないことになって…」と話す佐々木氏に、エドワード氏は「京都・大原の有機野菜とか誰それさんが作った“奇跡のゴボウ”とか使って気合い入れ過ぎて。(佐々木氏に)さすがに勘弁してくれよって言われた」と苦笑いして返す。現在、客単価は1850円ぐらい。
「気軽に行ける、“タコス屋”の味噌汁版みたいなイメージで、和と洋が混ざった世界を創ってくださいって(エディさんに)お願いしたんです。今さら味噌汁をわざわざ食べに行けない人たちが、タコスをぱっと買いに行くように(味噌汁を食べに行く)、そんな世界観でいきたかったので、あまり高いとターゲットがずれてしまう。とはいえ、お味噌汁が主役で毎日食べている味噌汁と違うコンセプトになると、ある一定の良いものは使いたいので、今の価格帯が限界値ってとこかな」(佐々木氏)

客層は日本人が8割

『ごろごろ野菜と角煮のすんごいとん汁のセット』

現在の客層は日本人が8割で女性中心だ。海外にも受け入れられる味を目指して開発したが、結果的には日本人が改めて味噌汁の価値を見直すきっかけとなった。「そこは想定外だった」とエドワード氏は話す。
「うちは別にインバウンド向けの店ではないので、やっぱり日本人に刺さらないと。それをふまえてメニュー開発します。例えば『ゴロゴロ野菜と角煮のすんごい豚汁』というメニューがあって、これって海外の方に伝わらないんですけど、日本人には伝わる。かつ、ひとつひとつが海外の方が食べても美味しい、いい感じっていう難しいリクエストで(エドワード氏に)やってもらっています」(佐々木氏)
約9坪のこじんまりした一軒家でスムーズなオペレーションを実現するため、セントラルキッチンを活用し、シェフがいなくともレシピが再現できる仕組みを整えている。
今後は国内での店舗展開を考えているが、物件選びには慎重だ。
「やっぱり朝ごはんを出せる場所であるとか、僕らの本来の組織文化として、夜の営業は極力やりたくないんです。なので、場所にはこだわりたい」(佐々木氏)

日本の日常食から、世界に通じるブランドへ

海外展開も視野にある。場所はエドワード氏が料理人として8年間キャリアを積んだアメリカ・カリフォルニア州だ。
「(MISOJYUは)絶対受けると思います。食材は全然(日本と比べて)安いですし、オーガニック商品が浸透していて、マーケットも大きい。高くても(アメリカ人は)来ると思います」(エドワード氏)
MISOJYUは、日本人が当たり前に捉えていた伝統食の価値を磨き直した。身近な食の中から価値を掘り起こすことも、新しい業態を生むヒントになる。


(取材協力)
会社名: 株式会社SSFホールディングス
住所:〒160―0022 東京都新宿区新宿5-17-5 ラウンドクロス新宿5丁目5F
代表取締役CEO:佐々木威人

HAMES FOOD LABO(ヘイムス フード ラボ)
クリエイティブディレクター兼フードディレクター: エドワード・ヘイムス

(店舗情報・MISOJYU 浅草本店)
席数: 22席
坪数: 9坪(延べ坪18坪)
客単価:1850円
原価率:30%
月商: 900万円
家賃比率:5%


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