掲載日:2026年8月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年8月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。
港区・麻布十番のビル地下にひっそりと佇む「肉割烹 岡田前(おかだまえ)」。オーナーシェフは、かつて数々のデザイナーズレストランや居酒屋を展開し「飲食のカリスマ」として脚光を浴びた岡田賢一郎氏だ。事業経営の第一線を退いた後、再び料理人として独立。現在は席数16席のカウンターで、4万4000円のおまかせコースを提供している。平月の月商は1500万円、繁盛月は2000万円に達するが、原価率は60%を下らない。70軒以上の店を手掛けてきた岡田氏は、なぜ今、小さな店に立ち続けるのか。「料理人であることが使命」と語る、その胸中を聞いた。
目次
流行は追わず、つくる

岡田氏は焼肉店からキャリアをスタートし、居酒屋やデザイナーズレストランを次々と展開。2000年初頭には売上高80億円を誇る企業グループを率いた。その後、紆余曲折を経て、再び料理人として現場に立ち、2021年に「肉割烹 岡田前」を開業した。
「再スタートしたのがちょうど11年前くらいかな。それから肉のお店ばっかり6軒プロデュースして、ここが独立開業して初めての店です。
僕は(過去に)70軒以上オープンさせて、料理は42年やっていて、独立してからも30年以上やってるんですけど、これから何が流行るんですか、みたいによく聞かれるんですよ。ファッションと一緒で時代によって求められることがぐるぐる回ってると言われますが、必ず僕がずっと言っていることは、流行りって乗っちゃだめなんですよね。流行りってつくるものだと思っていて、やっぱり続かないと意味がない」
岡田氏が手掛けた6軒の肉料理業態の店はどこも売上は好調だという。
「やっぱりそこで働きたいと思う人がいてこそ、お店として成り立つっていうのがあります」
直近では長野県・白馬にあるホテル焼肉店も手掛けた。
肉料理は鮮度で決まる

店内
同店はカウンターの前に大きなまな板が設置され、調理を目の前で観られる“劇場型”。
「店のコンセプトは、もう全てが新鮮なもの。熟成のステーキももちろんありますけど、和牛の新鮮なお肉を一番モットーにやっています。だからタン刺しなんていうメニューもあるんです。めちゃくちゃ新鮮で、昨日と畜されたものが届きます。長く(この仕事を)やってるんで、仕入環境はきちんとしています。納入業者の仲買さんをすごく信頼しているし、(先方にも)この人のところにいいものを持って行ったらちゃんと作ってくれるだろうと信頼してもらっています」
「僕、お肉と会話できるんですよ」
「僕、お肉と会話できるんですよ、本当に(笑)。若い頃は“俺がお前(素材)をこうする”みたいに思ってたと思うんです。だけどそれは限りがあるなと思って、そんな中でどうしたらいいのってきくようになったことがきっかけかな。触ってみて、別に味見しなくてもね、匂い嗅いで、見て、手に置いて、“どうしてほしいの”って聞く。そしたら“こうしてほしい”という答えが返ってくるんです。若い時のギラギラしたのがなくなったときに初めて、そういう素材と対話できるようになったって感じられた。それって別に料理人だけじゃなくて、他の仕事をされている方も含めて人生観じゃないかな」
人を育て、店をつくる

今もプロデュースの依頼が集まる岡田氏が最も大事にしているのは「人育て」だと話す。
「メニュー作って、店つくって終わり、じゃなくて、もっと大事なのは(店の)その人でね、お客さんが呼べるか呼べないかだから。僕のやる焼肉スタイルも何を変えるかっていうと、食材はもちろん、それ以上に見せる焼肉屋さんっていうか、ここ(カウンター)で全部料理をつくるんですけど、躍動感がある感じ」
弟子への教育について、「僕も教わったり勉強したことで、例えばお肉の真空パックを包丁で切って開けたりしたら絶対ダメだと怒りますね。包丁というのはビニールを切るためのものじゃないとか、カウンターでこういう会話はしないようにとか、そういう姿勢みたいなものですね」
同店では“お客様との距離感”を何より大切にしている。
「カウンターで、ひとりでやってますから、常連様の好みの距離みたいなものはすごく大事にしたいです。お客様で僕と喋りたいっていう人もいれば、会食で来られてる方もいますから、その辺は空気感を見ながらお料理できるのがこのカウンター料理割烹の大事なことかなって思いますね」
成功の先に見つけた使命

「この店って、僕が独立して30年やってて一番ちっちゃいんです。61才にもなるとね、欲がないんですよ。昔はむちゃくちゃありました。若い時乗ってた車がランボルギーニカウンタックですからね。あんなアホみたいなん乗ってるやつってギラギラしてるじゃないですか(笑)。今一番大事にしてるのはやっぱり健康です。家族も大切にしたいし、そういうことが尊く思えるようになったことが嬉しい」
ブリア・サヴァランの『美味礼賛』
欲がなくなった一方で、ひとつだけなくならなかったものが料理への情熱だったと語る。その根底には長年続けてきた読書がある。
「僕、本がすごい好きで読むんですけど、料理がなかったら本も読もうと思わなかったんじゃないかな」
岡田氏の料理観を形づくった本がある。
「ブリア・サヴァランの『美味礼賛』です。この本が僕の料理人人生の何パーセントか占めてるぐらいの本です。その中で『ひとつの天体を発見するよりも、一つの新しい料理を発明した方が人類は幸せになる』という言葉が出て来るんです。僕は本当にそれに感動して、俺もやれるんじゃないかなって」
今年の秋、一番弟子が南青山で出店する。
「弟子入りの希望者がめっちゃ多いんですよ。僕が料理人としての姿勢みたいなものを貫いて教えていきたいし、それをここで続けていくっていうのが僕の使命なのかなって思います。あと何年(店を)できるかとか考えたらね、誰かが続けていってくれたら嬉しいですね」
(取材協力)
店舗名:肉割烹 岡田前
住所:〒106-0045 東京都港区麻布十番1-5-23 ルネ麻布十番ビルB1
オーナーシェフ:岡田賢一郎
(店舗データ)
坪数:33坪
席数:16席
原価率:60%
月商:1500万円(平月)、2000万円(繁盛月)
人件費率:20%
家賃比率:5%
取材・文:高山浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。





