【スマイラー125号・焼肉特集】 “王道”を磨く生存戦略。中価格帯の老舗焼肉店が、「選ばれ続ける理由」

店主の声

掲載日:2026年8月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年8月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

焼肉業態は高級路線や食べ放題といった二極化傾向にある。一方、中価格帯は最も差別化が難しい。「大山飯店」は、五反田で50年以上支持され続け、中価格帯店として確かな地位を築く。客単価は約1万円ながら、「コスパがいい」という口コミも多い。その評価を支えているのは価格だけではない。地域の常連客を何よりも大切にし、仕入先との長年の信頼関係を力に、町焼肉らしい味とボリュームを守り続けてきた。一方で、時代に合わせた店づくりも進めてきた。そうした積み重ねが今なお “選ばれ続ける”理由となっている。

五反田に根付く

店は2階にある

「大山飯店 本店」は、1981年に創業。五反田では焼肉店の“草分け的存在”でもある。韓国生まれの祖父が来日し、焼肉店を創業。2代目の社長は江原氏の父親だが、約8年前から3代目の江原氏が経営の舵を取っている。現在38才。18才から店に立ち、「もう20年です」と気負いはない。
週末は家族連れの客層が約8割を占める。地元住民が多い。
「だいたい3世代で来られますね。おじいちゃんと来ていた人たちが家庭を持って孫連れて、みたいな」
同店は広告を一切打っていない。平日も夜のゴールデンタイムは予約で埋まる。その時間帯以外は空いているときもあるが、あえて集客活動はしない。常連客が来店しにくくなるからだ。
「ここの人たち(地域の常連客)は、予約とか取りたがらないんですよ。だからインスタとかやっちゃうと、ふらっと入りたいお客さんが来れなくなっちゃうから、もうこれ以上集客はいらないし、五反田の人たちがいつでも入れるようにとは心がけていますね」
“常連客ファースト”が経営の基本姿勢なのだ。

選ばれる理由

高級感ある店内

今年で開業45年目。長く支持される理由について、江原氏は、主力商品以外のメニューにも力を入れて提供している点だと分析する。
「今の焼肉業態が、スタッフの誰でも調理できるようにどんどん簡略化して、スープ類やアラカルトなどのこだわりが結構減ってきていると思います」
同店秘伝の『生ダレ』は、顧客からも売って欲しいと好評だ。先代が開発したものだが、現在もレシピを調整している。
「入っているものは変えないんですけど、やっぱりまだ正解を探しているというか。季節や原料の状態によって、毎回分量は変えています」
これらの調整は江原氏自らがやっている。

職人技が光るサイドメニュー

高度な調理技術が必要な『豚足』


サイドメニューには職人技が光るものも多くある。『豚足』など、難しい調理技法が必要な商品は基本、江原氏と従業員の数名で行っている。
「なので調理スタッフはみんな職人ですね」
同店は高級店と大衆店の間の中価格帯の店といえる。一方、20年前に改装した店の内装はガラスを多用した、とても落ち着いた雰囲気だ。
「ちょっと高級な感じで、味は町焼肉。それがうちのウリですかね。狙ったわけではないですが、最近は、逆に“町焼肉”的なものを追求しようと思いました」

有名人や接待にも使いやすい個室

仕切りで広さを調整できる個室


スライド式の仕切りで収容人数を自在に調整できる個室も完備している。
「家族連れなら子どもは、はしゃげますし、個室で接待もできます。いろんなジャンルの芸能人の方も結構来られるんですよ。うちはボリュームがあって、味も濃くて、それがまたいいのかなと思います」
町焼肉の味と洗練された空間。この両立が、幅広い客層を掴んでいる。

コスパは長年の努力の賜物

定番の『特上ハラミ』

客単価は9000円から1万円と安くはないが、口コミでは「この値段は納得」「コスパがいい」と評されているものが多い。
「昔は(肉一皿に)100グラムっていうのが当たり前だったんですよ。でも価格の高騰が激しくて、みんな値段を上げたくないからグラムを減らすんです。うちがずっと100グラムなのは、業者さんとのお付き合いが長くて、(創業以来)50年ぐらい一緒にやっているので、仕入れ価格も頑張ってくれています。そのあたりは老舗ならではの強みかもしれません。
上物は逆に量を多くしています。値段はこちらが頑張っているだけです。(値上げすると)怖いんですよ、常連のお客さんが来なくなるんじゃないかって。それがそういう口コミになっただけですかね」
原価が高騰してもボリュームは守る。コスパを狙ったわけではなく、常連客に納得してもらう価格を目指した結果だった。

街に必要とされる店であり続ける

ランチは比較的リーズナブルだが、狙いは夜の来店に繋げることだ。
「昼はビジネスマンがたくさん来てくれますので、味を見てもらうという感じです」
同店は朝4時まで深夜営業している。
「昔は朝4時まででもすごく入っていたから続けていたんです。ここは夜の街なんで。でもコロナぐらいから減ってきて」
収益面では、赤でもなければ黒でもない。
「本当は(深夜営業を)やめてもいいかなと思っていたんですけど、今でも営業しているスナックや飲食店の方たちから『なくなったら困る』ってすごく言われて、こちらもこの街や皆さんに感謝しているのでやっていかなきゃなと思っています」
同店は焼肉店と思えないくらい、酒類が豊富なのもそういった深夜帯の常連からの要望を反映している。
「夜22時ぐらいから来られて2時位まで飲む方もいますので重宝されています」
江原氏が先代から守り続けているものについては、即答で「ボリュームと質」と返って来た。業者から安い産地の商品を勧められても「一度はチェックしますが、だいたいダメで、結局安い方にはいかない」と話す。
常連客を大切にし、味と量を守り、地域の“インフラ”であり続ける。そこには長年築いた信頼を裏切らないための絶え間ない努力がある。それこそが半世紀近く選ばれ続ける理由なのだろう。


取材協力)
店舗名:焼肉大山飯店
住所:〒141-0031 東京都品川区西五反田1-11-9 司ビル2階
常務取締役: 江原拓也

(店舗データ)
坪数:55坪
席数:82席
原価率:約35%
客単価:9000円~1万円
月商:2700万円(平月)、3100万円(繁盛月)
人件費率:33~34%
家賃:150万円


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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