掲載日:2026年8月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年8月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。
「焼肉居酒屋 肉市場」は、神奈川県・茅ヶ崎の駅近くに店を構える。オーナーの宇野雅仁(まさひと)は、フランス料理のシェフとして海外で活躍。40才に地元の茅ヶ崎に戻り、ベッドタウンでチェーン店の少ない街に合うカジュアルな業態として、まずは肉バルを開業。6年後、「焼肉居酒屋 肉市場」を出店した。コロナ禍を乗り越え、現在は地元客9割、常連7割の店となっている。地元客中心の商圏で選ばれる焼肉店はどうつくるのか。
目次
世界を見て、地元に帰る

宇野氏は20代から30代にかけて、海外各国にあるフレンチレストランでシェフとして修業。ニューヨークではニューヨーク・タイムズ(アメリカを代表する有名紙)レビューで2ツ星を獲得する高評価の店で、料理長として店の経営も任されていたこともある。その後、地元・茅ヶ崎に戻る。
「生まれ育った場所に戻ってきた感じですね」
迷った末、東京ではなく地元を選んだ。宇野氏、40才の頃だ。
街に合わせて、業態を選ぶ。

茅ヶ崎は人口も会社の数も多くない、ベッドタウン的な街。そのため、“低単価で気軽に行けるお店”をコンセプトとして、2013年、帰国後すぐに肉料理メインのバル業態を開業。「高級店は必ず流行るもんではないかなと直感で思ったので、バルという形をとった」と宇野氏。
続いて、フレンチ出身にも関わらず、焼肉業態を選んだのは、当時のビジネスパートナーが焼肉店運営の経験があったのが背景にある。加えて「やっぱりこの街はカジュアルなお店の方が向いているなと思って、焼肉店をやる時も高級店ではなく“ホルモン屋”に近い店をと思って開きました」。
こうして19年に「焼肉居酒屋 肉市場(以下、肉市場)」が生まれた。
同店があるJR『茅ヶ崎』駅南口には、チェーン店がほとんどなく、価格競争が起こりにくい。
「それでやってみたんですけど、そもそも(焼肉の)需要もなかったというか。焼き鳥屋がいたるところにあって、焼き鳥文化が強いんです、この街は。だから少しずつその(焼肉)需要を増やしていってるような形ですかね、今は」
街に根付く店づくり

開業直後は大反響だったと語る。しかし数か月後、奇しくもコロナ禍が直撃。客が常連客として定着する前だった。
「苦しい時期ではありました。コロナが明けてから再開して、時間はかかったんですけど、ここ1、2年で認知度が上がってきました」
日々の地道な努力といろんな方の口コミのおかげだと分析する。現在は客の9割が地元住民。常連客は7割だという。残り1割は週末に訪れる観光客や茅ヶ崎で働く人々だ。
「この街はちょっとした“村”なんですよ(苦笑)」
早い時間帯はファミリーや高齢者が食事目的で来店し、後半は、仕事帰りの中年層や若年層が飲み目的で訪れ、その割合は半々。ひとり客、ファミリー、中高年と全ての客層が気軽に利用できる店作りを心掛けている。
昭和レトロな内装にしたのは「自分が飲食店にいくときに落ち着いた、ちょっと古いものがある店の方がリピートしていたので、だったら昭和だなと決めた」と話す。加えて、茅ヶ崎に昭和レトロコンセプトの店がなかったからだ。
街を知れば、個店は勝てる

バル業態と焼肉業態の両方をやってみて学んだことがある。
「焼肉店の良さも分かりますし、難しさも感じています。焼肉業態は安定的ではあります。“俺はあの焼肉屋さんが好きだ”って決めるとだいたい再来店されるので、リピート率が高い。それは実感しています。ただ焼肉屋さんって2軒目、3軒目っていかない。そういう意味でいうとやっぱ、系列店(肉バル)は、はしごして来てもらえるというのがあります」
最大の悩みは原価率だ。現在40%近くになってしまった。
「ここは何回も来ていただけるということを念頭にやってるので、なかなか価格を上げられないですね。地元の方に愛されて(値上げは)しょうがないよねって段階に、遅れながら上げていくしかないなと」
実は同店を開業する半年前、鎌倉近隣の街で系列店の2号店を開業していた。が、僅か1年半で閉業した経験がある。茅ヶ崎と違い、家賃も「茅ヶ崎の倍近い」高さである上、チェーン店の多い場所で価格競争に巻き込まれたのだという。
「茅ヶ崎との違いを感じた街でしたね。料理はちっちゃくていいからとりあえず“価格”なんですよね。安くないとダメなんです。逆に茅ヶ崎はチェーン店がないから、実際はそんなに安くする必要はなくて、自分の好きな商品を、ある程度好きに値付けしてやってもいいんです」
街を読み、街に合う店づくり

今後の展望として、現在は系列店をもう1店舗展開するかどうか検討中だ。肉バル業態は、商売的に付加価値が高い一方、料理技術が求められるため、参入できる人は多くないという。
現在、系列店は宇野氏がかつて働いた料理店の同僚にあたる友人二人に全面任せている。肉市場は、フレンチの料理人として培った牛肉以外の食材の知識を生かし、メニューにラムや鴨肉といった“変わり種”メニューも加えているが、店の属人化を避けるため、「フレンチ色は出さないようにしています。いつかは私もここを抜けるという前提でやっていますので」と宇野氏は語る。
茅ヶ崎という場で、焼肉と肉バルという選択をした宇野氏。世界を知りながら、自らの経歴にこだわらず、街を読んで街に合う業態を選んだ。その判断が今の店の土台となっている。
(取材協力)
店舗名:焼肉居酒屋 肉市場
住所:神奈川県茅ケ崎市共恵1-4-17
オーナー:宇野雅仁
(店舗情報)
坪数:20坪
席数:30席
原価率:約40%
月商:350万円~400万円(平月)、500万円(繁盛月)
人件費率:30%
家賃比率:約5%
取材・文:高山浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。





