【スマイラー124号・町中華特集】町中華を、深める。祐天寺で25年。変わりながら続く町中華

店主の声

掲載日:2026年7月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年7月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

「中華 Dining & Bar (ダイニングアンドバー)笑口房(しょうこうぼう)」は東急東横線『祐天寺』駅から歩いてすぐの場所に看板を掲げる。中目黒・自由が丘といった、定番のお洒落スポットに挟まれ、外部流入も少なく、高齢化が進む住宅街で25年。同店は町中華でありながら、ワインやコース料理を取り入れ、中高年女性の昼飲みや女子会需要も取り込んできた。一方で根底にあるのは「毎日食べられる中華」という思想。町中華の本質を残しながら時代に合わせて変化し続けてきた店主の渡辺太(ふとし)さんに話を聞いた。

町中華を、変えてみる

中華の店とは思えない雰囲気

「中華 Dining & Bar 笑口房」は祐天寺で開業して通算25年になる。最初は駅前にあるビルの4階で始まった。
店は洒落たイメージのある東横線沿線の駅前だったため、開業当時の渡辺さんは「立地的には間違いない」と思っていたという。
「後々、『祐天寺って難しいんだよ、飲食は』って言われて(苦笑)。でも、駅前で入んなかったらもう自分の実力がないんだろうなって思ってやりました」と渡辺さん。こうして席数30席の店を10年間経営し、2010年に拡張移転。現在の店は席数45席。
「10年やって、結構お客様が入るようになったので広くしようかと。厨房も広いとふたりで料理が作れると思ったんです」
以前は“こぎれいな町中華店”として、中国家庭料理を提供するコンセプトだったが、新店舗ではワインなど酒類のレパートリーを増やし、ダイニングバーという業態に変更した。
「一時期ちょっと高いものも置いていたんですけど、やっぱりそんなに出ないです。中華なので飲んでさっぱりするような白がよく出てるかな」
店内は“中華っぽくない”と評されることも少なくない。
「本当に年配のお客様が多くて階段上がるのも大変な人がいっぱい来てくれているので、建物は古くなっていますけど、店の中はとにかく綺麗にしようと徹底していますね」

毎日食べられる中華が、常連を育む

日替わりランチのカレービーフン

客層の半分は地元民。25年前から通って親子2代で利用する常連もいる。残りは周囲で働いていると思われる30~40代だ。
週5日のペースで利用する高齢者も多い。それもあり、同店では日替わりランチメニューを1カ月単位で考案、開業以来、ずっと続けている。
同店の料理は基本さっぱりしているというのが定評だ。過去に修業した店では仕上げに油をたっぷりかけてコクを出していたというが、独立開業してからは極力少なめにしている。
「それでも美味しい、というところのバランスですかね。うちに年配客が多いのはそういうところもあると思うんです。毎日でも食べられる中華で、食材も缶詰とかじゃなくて、新鮮な野菜を使っていて、それがずっと来てくれている秘けつなんじゃないかなと思っています」
町中華は「日常使える店」ではあるが、昔ながらのノスタルジックな魅力だけでなく、今の時代にあった洗練されたものを出したいと考えている渡辺さん。中華の7、8割は「下仕込み」で決まると強調する。
「やっぱり仕込みの、食材の切り方がなんだかんだ言っても大事。あとはオーダーが入ればそれをいい火の通し具合で、一瞬で仕上げて出す、っていうのが中華です。基本的な下仕込みからちゃんとやると美味しさって変わってくるので、そこは変えたくないと思っていますね」

時代に合わせて町中華を更新する

バーカウンター席

「最近若い人が増えてきたなっていう気はします」
周囲に中目黒・自由が丘という若者の人気スポットがある祐天寺にも若年層が流入し始めている。
渡辺さんはSNS活動が得意ではないため、宣伝はほとんどしていない。それでも“この店は穴場”といった口コミが見受けられ、中高年女性グループのランチや昼飲み利用が一定数ある。
「その方々がランチタイムに5、6人でまとまって来られるとめっちゃ忙しくなります」
一方で店でも大きな変化が起きていた。現在の広い店に移転したのは、渡辺さんの片腕として、長年運営を支えてくれていた従業員を育成し、ゆくゆくは店を承継したいという背景があった。しかし昨年、その片腕の従業員が退職。状況が変わってしまった。コロナ禍以来、続けていた弁当販売は辞め、80品目ほどあったメニュー数も絞り、夜はコース料理をメインにし、月替わりの“プリフィックス”形式を導入。現在、夜にコースを選ぶ割合は5割程度になった。
「やっぱ同じメニューは無理だと思って。まぁ選べないとつまんないでしょうし、人気のメニューは残して、単品で頼むよりお得な内容にしています。最近やっと浸透してきて、客単価も上がったかな」
客単価は以前、2500円だったが3000円にアップした。

拡大ではなく、続けるために

店は2階にある

「ここって電車の乗降客が本当に少なくて外から人が来るって街じゃないんです。25年前からずっと来てくれている方が、おじいちゃん、おばあちゃんになって、そのお孫さんが成人して、家族で来てくれる。そういう感じじゃないとここで店を続けるのは難しいですね」
現在は調理をひとりで担うため、大きな売上拡大策に取り組んでいない。旧店舗より酒類を増やし、業態も変えたが、酒類の売上比率はそれほど上がっていない。地元の常連が多く、彼らが高齢化しているのも理由のひとつだ。
普段使いから、宴会や貸切まで対応できる45席の店は祐天寺の幅広いシーンで利用できる貴重な存在だ。地元客に支えられ、今も月商約500万円を維持している。
現在63才の渡辺さんは、「25年間、店を続けてきてやり残したことはない」と話す。
「ここは広くて固定費もかかるし、もっとちっちゃな所で奥さんとふたりでずっといつまでもやりたいっていうのが夢ですね。まぁ祐天寺でやれたらいいかな。ここだったらみなさん間違いなく知ってくれているので」


(取材協力)
店舗名:中華 Dining &Bar 笑口房
住所:東京都目黒区祐天寺2-12-19 山寺ビル2F
オーナーシェフ:渡辺 太

(店舗データ)
坪数:約25坪
客数:45席
原価率:42%
客単価:1100円(昼)、3000円(夜)
人件費率:22%
家賃比率:7.8%

取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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