【スマイラー124号・町中華特集】町中華を、つくる。野毛で定着したネオ居酒屋の生存戦略

店主の声

掲載日:2026年7月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年7月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

「AM:PM(エーエムピーエム)」は、横浜屈指の飲み屋街・野毛に看板を掲げる。株式会社Def eat(デフイート)の高村峻允(たかむらしゅんすけ)氏は、野毛では珍しかった町中華風ネオ居酒屋を考案し、出店。若年層の集客には成功したが、SNS映え目的の一過性の利用客も多く、大衆酒場路線へと軌道修正した。現在は平月700万円、繁盛月900万円を売り上げ、野毛の日常使いの店として定着している。しかし高村氏は「ヒットした店とはカウントしていない」と語る。その真意を聞いた。

野毛に足りなかった“中華酒場”

高村社長

同社はもつ焼き業態など野毛・関内エリアにドミナント展開している。“まず物件ありき”で物件に合った店をつくるのが高村氏のやり方だが、野毛に30坪の大箱物件が現れ、多数の出店希望者から選ばれた。その背景には、大家が地元民で、同社も地元の企業であったことがある。もうひとつの決め手として、野毛には焼き鳥やもつなど似通った業態が多いなか、町中華コンセプトの居酒屋という目新しさが受け入れられたようだ。
「このエリアですでにお店を持っていたので、業態がバッティングしないように、街に来るお客さんたちは何があったら嬉しいんだろうと考えました」
同エリアにはイタリアンやスペインバル的な店は多少あった。
「横浜=中華街で、やっぱ中華でしょう、みたいな発想はなかったですね。そもそも中華街は飲み屋街ではないし、野毛にもうちょっと中華があってもいいんじゃない、みたいな。物件が野毛という街の“玄関口”のような場所にあったので、『綺麗な感じ(の店)でつくります』と伝えて出来たのがAM:PMです」
時はコロナ禍、2021年10月に同店は誕生した。

“映える店”は本当に強いのか

ネオンが煌めく店舗外観

小さな店がひしめきあう野毛で、30坪の店は“大箱”だ。
「基本的に野毛って週末、(客が)溢れるんですよね、お店が足らなくて。なので、ある程度大箱でも集客できるってのは見えていました。エリア的に年配の人たちが多いんですけど、そこをターゲットにしていても続けていけないので、なるべく若い人達が来やすいような外観や内装にしていって…そこに需要があったのかな」
ネオンを使ったファサード・内観は当初の狙い通り、若者に受けた。しかし、だ。
「お店来て『お水だけください』とか言う子も全然いて、食事もしないような子が本当に多かったので、すごいな、みたいな(苦笑)。それでワンドリンク制とかそういう決まりをどんどん作っていった感じですね。この(若年)層を取りにいくのは、作戦的には良かったけど、一回写真撮ったら絶対もう来ないんで、ちょっと難しいなっていうのはありました」
新しさは集客できても、定着までは保証してくれないのだ。

屋号の由来と、1年で二毛作を辞めた理由

開業当初、日中(AM)はラーメン業態、夜(PM)は居酒屋、という二毛作モデルだった。屋号はそこから来ている。
「二面性のあるお店、って感じで。あとは響きかな。隣がもともとam/pm(エーエムピーエム)って名前のコンビニだったんで、それでいこう、ってそんなノリです(笑)」
野毛は昼から営業している店が非常に多く、“昼飲みの聖地”としても有名だ。
「コロナでお昼から飲むみたいな方が本当に増えたんです」と高村氏。こうして昼はラーメン、夜は居酒屋の二毛作モデルはたった1年で見直された。コロナ収束後、昼飲み需要の高まりを受け、ラーメンよりも居酒屋業態に集中したほうが収益性は高いと判断したからだ。

日常使いされる店になる

開業当初は“本格的な中華をカジュアルに食べられる居酒屋”というコンセプトで始めたが、「ネオンギラギラで野毛になかなかないような内装、ファサードにしてたんで、ちょっと一過性になり過ぎちゃうね、っていうことでコスパの良いフードやドリンクといった大衆酒場っぽく修正していきました」。
平均客単価は2000円から2500円程度。
「街自体がすごい低単価なお店が多いので、2000円以下の人も全然多い。そこにコースを定期的に更新しながらある程度しっかり入れてやっていって、客単価的にバランス取れるようにしている感じです」
同店は2軒目、3軒目利用を想定して設計しているわけではない。
「そもそも野毛っていう街が、1軒しか行かないっていう人はあんまりいない。はしご酒の街なんで。うちは駅の近くだから最後に1軒っていう形で使われる方もいれば、1軒目、2軒目と多様な使われ方していますよ。街的に大箱がないので、ある程度大箱の店は、団体利用やコース利用客はやっぱ抱えていますね」

最後は“サービス”で勝つ

高村氏は、日常使いしてもらう秘けつは結局のところ「サービス力」だと語る。
「同じものをしょっちゅう食べるのって飽きたりするし難しいじゃないですか。でもあそこ言ったら元気になれる、みたいな場所になっているとちょっと行こうかな、みたいな感じになる。それが属人化せずにお店がそういう雰囲気を作っていくっていうのは心がけていますね」
同店の口コミは「見た目だけでなく料理も本格的」「スタッフの感じが良い」というコメントが多く見受けられる。
現在、日常使いの店として定着しているが、高村氏的には同店はヒットした店としてカウントしていない。
「弊社の中ではファサードとか内観とか奇抜にやり過ぎた感があって。都内だったらもっと売れてたのかなって。横浜市民は比較的保守的な感じが強くて、いつも行き慣れてる場所に行きたいっていう人の方が多いんですよ」
若者を集めることには成功した。でも日常使いされる店になるには、コンセプトよりも、サービスや居心地が必要だった。


(取材協力)
会社名:株式会社Def eat
住所:〒231-0846 神奈川県横浜市中区大和町2-34-10
代表取締役:高村峻允

(店舗データ)
坪数:30坪
席数:58席
客単価:2000円~2500円
原価率:30%
月商:700万円(平月) 800万円~900万円(繁盛月)
人件費率:27%
家賃比率:10%


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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