【スマイラー126号・飲食店取材】「病気になる前の健康」を、食で支えるスリランカ料理店

店主の声

掲載日:2026年9月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年9月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。

「SERENDIB(セレンディッブ)は、浅草近く、蔵前にあるこじんまりとした店。一見すると本格スリランカ料理店だが、店が目指しているのは「未病を支える食」の提供だ。その考えは健康意識の高い働き盛りの女性から支持され、客層の95%が女性を占める。背景には、前職で医療に携わる立場から健康を考えてきた金澤恵美(めぐみ)さんと、スリランカの家庭の味を受け継ぐラヒル・タラカさんがたどり着いた「食で健康を支える」という店づくりの思想がある。

同店のスリランカカレープレート。この日の「六味」にはケール(苦味)やビーツ(甘味)などが

薬学を学んだ金澤恵美さん(以下、恵美さん)は、製薬会社で約25年間勤務。ヨガに興味を持ち、インド旅行した際にインド発祥の伝統医学(アーユルヴェーダ)を知る。その後、40代後半で人生を見つめ直し、早期退職優遇制度を利用して退職を決意。
「会社が抗がん剤を開発していて、どうしても治せない患者さんとかを見ていると、病気になる前の段階で何かできることはないかとずっと考えるようになっていました。それで退職し、アーユルヴェーダを勉強しに行ったんです」と恵美さん。
学び終えて帰国後、恵美さんは薬草オイルを使用した施術サロンの開業を計画していたが、コロナ禍で断念。ラヒルさんと話し合い、スリランカカレーの店を始めることに。
「食についてもかなり学んで、やっぱり食事は大事だなと。アーユルヴェーダの教えでは、体力を最も増進させるのは六つの味(甘味・塩味・酸味・辛味・苦味・渋味)を全て常食することだとあります。スリランカカレーは、六味が全部入っていて、すごくバランスがいい食事です。これを普段よりストレスを多く感じやすい働き盛りの女性たちに提供することによって、健康維持に貢献できるのではと思い、ラヒルさんに一緒にお店やらない?って」
こうして2020年10月に「SERENDIB」が生まれた。

母から受け継いだ、本場の味

季節限定メニューには『ヒグマの煮込み』というカレーも

ラヒルさんは、開業前にスリランカのレストランで修業する予定だったが、コロナで叶わず、実質的に「ぶっつけ本番」で店を始めることになった。
そんな彼の頼りとなったのは、日々カレーを作っている故郷の母親だった。店で作るカレーは家庭の量とは違うため、ラヒルさんは母親に電話で指南を受けながらレシピを作り上げた。調理には、ラヒルさんの実家秘伝の調合による粉スパイス(トゥナパハ)を使用。家庭ごとに異なるトゥナパハを受け継ぐのは、スリランカ家庭料理文化の特徴だ。カレーは小麦粉を使わず、油も控えめ。
「主人も油を極力使わないように気を付けています。また日本の季節の野菜を具材として取り入れるのも当店の特徴です。毎日食べられるカレーを提供するっていうのは最初からのテーマですね」
カレーは日本人向けにルーを多めにした。
「現地では手で混ぜて食べるのでルーがなくて全部お惣菜、みたいな。それで『ルーがちょっと欲しい』みたいなコメントがあったので、当初より多めにしていますが、基本の味付けはスリランカスタイルのままですね」
例えば、ビーツが甘味、ケールとライム汁の和え物が苦味と酸味、ダールカレーの豆が渋味だ。力強くスパイシーな主菜とココナッツミルクが使われたダールや野菜のカレーの優しい味が、心地よい調和となっている。満腹感はありながら、食後は軽やかなのも印象的で、「夕方にはしっかりお腹が空くというお客様もいらっしゃるので、消化がいいんでしょうね」と恵美さんは話す。

働く女性が通いたくなる店づくり

スリランカの建築家、ジェフリー・バワを参考にした店舗内観

同店は、料理だけでなく、空間づくりにもこだわっている。店内はスリランカの建築家・ジェフリー・バワを参考にし、白を基調にしながら木の温もりも感じる雰囲気だ。
「ターゲットにしている客層が30代から50代の女性なので、落ち着いた感じがいいかと」

スリランカ料理ではなく、健康管理を意識した発信

SNSでは、異国の料理というより、食材や季節、体調管理について、“今はこんな野菜とスパイスを使っているからこういう疲れた人が来てね”という内容を発信している。
「(スリランカカレーが初めての人には)全部(一皿に)盛られてくるんですよ、混ぜながら食べてくださいね、ってのは必ず言います。それで説明は十分かと。あとは食べて美味しかったと思ったらまた来てくれるでしょうし。初めて食べて美味しかったからと次に友達とか連れて来て、それで常連になってくれます」
常連客は近隣で働く若者や住民が多く、新規客と半々。毎日来店する人もいる。

「食で健康を届ける」という理想

スパイシーな「デビル・シュリンプ」。お酒と合う

退職後、自己資金を元手に開業し、今年で6年目。経営経験もない中、黒字に安定するまでは3年かかった。現在は席数が不足になるほどだ。
「最初はこんなにたくさんのお客さんが来てくださると思っていなくて、主人と二人でぼちぼちできたらって感じだったんです。今はもう席数がマックスで、いっぱいいっぱいです」
週末のランチタイムは6、7回転するほどで、中には行列を諦めて帰る人もいる。
「もっと席数が増えればたくさんの人に食べてもらえる、と店を広げてメニュー数も増やすことが主人の夢ですね」
移転・店舗拡大を検討するものの、物件探しが課題だ。蔵前エリアは“ものづくりの街”として人気が上昇している。
「蔵前(の家賃)がすごく高くなっていて。ここで頑張っている若者たちは、うちに食べに来てくれたりするのでここは離れたくないし、悩ましいです」
一方、恵美さんはかつて諦めたアーユルヴェーダサロンの開業もいつか挑戦したい。
二人がたどり着いた「食で健康を支える」という思いは、いま多くの女性たちの支持を受けている。


店舗名:SERENDIB(ルビ:セレンディッブ)
住所:〒111-0042 東京都台東区寿3-8-3
店主:金澤恵美&ラヒル・タラカ夫妻

(店舗データ)
席数:17席
坪数:約9坪
原価率:約30%
客単価:1500円(昼)、平均3000円(夜)
家賃比率:約6%


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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