掲載日:2026年9月20日(紙面発行日)※この記事は「スマイラー(2026年9月号)」からの転載です。本文中の「今年」「去年」などの時制表現や、月商をはじめとする店舗情報はすべて発行当時(取材時)のものとなります。
「TOKYOエビフライ」は代々木駅近の雑居ビル二階にある約9坪の小さなお店。店主の楡木謙司(にれきけんじ)氏は「エビフライだけで商売になるのか」と大きな不安を抱えながら、リスクを抑えて開業。開業直後のテレビ紹介が追い風となり、認知を広げた。しかし、現在も支持され続ける理由は、飽くなき探究心と長年積み重ねた妥協のない商品づくりにある。エビフライという親しみのある料理だからこそ、ファミリー層や高齢者層も呼び寄せている。
目次
エビフライ一本で勝負するのが怖かった

楡木氏は洋食店を営む両親のもとで育ち、自ずと飲食業の道に進んだ。10年近く勤務したホテルで洋食を学び、転職した大手焼肉チェーン店で約8年間、マネジメントに従事。
焼肉店転職前に世界を旅した。このとき「人生は一回きり」と独立の思いを固める。その頃から独立を見据え、エビフライの研究を始めていた。
機が熟し、昨年の2月に開業。氏はリスク回避を重視して業務委託スタイルを選んだ。
「居酒屋とかイタリアンとかなら、ある程度売上予測は立てられるんですけど、完全にエビフライの専門店をやりたかったので、最初は絶対怖いなって思ってたんです」
テレビ取材が追い風に
慎重に開業に踏み切った氏だったが、偶然にもオープン直後に大手テレビ局の番組に連続で取り上げられ、急ピッチで認知が広がり、数カ月間は行列が絶えなかった。
「正直これがすごくデカかった。おかげで割と順調なスタートでした」と胸をなでおろす。
一方、同店は代々木の駅至近という交通の便が良い立地だったため、都内だけでなく周囲の他県からも集客できているのは予測通りだった。
「新宿と渋谷の間なので、横浜・埼玉・茨城などから来ていただけます」
簡単に真似できない一皿を追い求めて

「牛カツとかサーモンレアカツとかいろいろありますが、これを海老でやったら面白いなと思って」
開業前からずっと考えていた。生エビフライに使用する海老は広島で養殖されているバナメイエビだ。バナメイエビは一般的にエビフライ向けとされているが、外国産は衛生管理上、生食できない。楡木氏によると生食可能なバナメイエビは日本しか生産されていないという。
「甘海老とか生食できる海老はあるんですけど、柔らか過ぎて揚げたら溶けて残らないんですよね」

常時取り扱う海老は8種類。揚げ時間、各種揚げ油のブレンド比率、バッター液の濃度、パン粉の種類と粗さなど、各種類で全て異なる。一度に複数の注文が入ると混乱しそうだが、ひとりでこなす。現在のレシピは、開業前に1年半ほどかけて作りあげた。
「海老の大きさ、油、パン粉…80通り(の調理法)は試しましたね」
「語り出したら気持ち悪がられる」と苦笑いする楡木氏だが、今も休日も機会をみつけては他店のエビフライを食べ、レシピを改良し続けている。
「子どもの頃から5000尾くらいは食べていますね(笑)」
小さな店だから守れる品質

店の広さは約9坪。楡木氏とアルバイトの2名体制だ。
「いきなり40席とかのお店は怖くて作れなかったです。どれくらいお客さんが来てくれるか、おっかなびっくりで始めました(苦笑)」
席は14席。あえて多めに設置しなかった。
「揚げ物なので、できたてを提供するために席を少なめにしました。そうしないとクオリティをなかなか保てない」
一度に提供できる数はだいたい4人前ぐらい。一皿に7,8分はかかる。満席でも全員20分以内に提供できるオペレーションにしている。
「ここで様子を見て、大きくしていきたいなと思っています」

客単価は昼が2000円から2500円、夜は約4500円と安くはない。1尾で4840円する『皇帝エビフライ』は、長さが45センチほどある超特大の海老を使った、同店のシグニチャー商品だ。週平均15から20ほど注文が入る。
「週末にご夫婦でこちらを注文されたりします。インパクトもあって、(巷で)販売していないので海老専門店として売っていきたいなと」

思いがけない客層が、次の店づくりを変えた

開業当初は、ワインを豊富に揃えたビストロ的な大人向けの店づくりをした。しかし、蓋を開けてみると夜の客は、ハレの日利用の家族連れや、高齢者の客も多く、エビフライそのものを楽しむ洋食店としての利用が多かった。
「子どもの誕生日に、(親)『何食べたい?』、(子)『エビフライ』となって、専門店があるならせっかくだから行ってみよう、って感じですね」
楡木氏もエビフライの“特別感”に魅了された子どもだった。
「そうですね、しっぽやアタマがついていて、タルタルソースつけて、『うめぇ!』って(笑)」
現在、ファミリーや高齢者も入りやすい、広めの路面店を探している。2号店は委託ではなく独立開業で構想中だ。人材の育成も進めている。
「できれば都内で、駅から離れていてもいいから、もっとゆったり座れる席がいいかな」
エビフライの親しみやすさと、専門店ならではの特別感が、幅広い客層を引き寄せ、2号店の構想にも影響を与えている。
(取材協力)
店舗名:エビフライ専門店 TOKYOエビフライ
住所:東京都渋谷区代々木1-32-10 代々木ラックビル2階
オーナー:楡木謙司
(店舗情報)
席数:14席
坪数:9坪
客単価:2000円~2500円(昼)、4500円(夜)
原価率:30%
月商:非公開
取材・文:高山浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。





