災害に備える非常食と聞いて、「乾パン」を思い浮かべる人は少なくありません。
乾パンは、水や火、調理器具などが十分に使えない状況でも、そのまま食べられる保存性の高い食品です。コンパクトで持ち運びやすく、長期間保存できることから、家庭の防災備蓄だけでなく、さまざまな非常用備蓄食品として利用されてきました。
現在販売されている保存用乾パンには、5年間の賞味期間を設定した商品もあります。三立製菓では、缶内の空気を脱気するとともに脱酸素剤を封入することで、保存性を高めています。
そんな乾パンですが、実は現在のような「防災食」として登場した食品ではありません。
そのルーツをたどると、古くから日本で食べられてきた携帯食や、江戸時代末期の軍用食に行き着きます。
では、乾パンはどのようにして生まれ、なぜ非常食の定番になったのでしょうか。
目次
乾パンの由来は「携帯できる保存食」

乾パンの歴史をたどると、まず「保存食」という考え方そのものが重要になります。
冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代には、食材を長期間保存することは現在よりも難しいものでした。
そのため、米などを乾燥させたり、焼いたりすることで水分を減らし、持ち運びやすくした食品が昔から利用されていました。
三立製菓の公式資料では、日本の古い携帯食として「乾飯(ほしい)」が紹介されています。
乾飯とは、炊いた米を乾燥させたものとされ、携帯しやすい保存食として利用されていました。
さらに鎌倉時代からは「糒(ほしい)」という呼び方も使われるようになったとされています。
つまり、乾パンが突然登場したわけではありません。
「食べ物を乾燥させて保存性を高め、必要なときに持ち運んで食べる」という発想は、日本でも古くから存在していました。
日本の乾パンの始祖は江戸時代に登場
現在の乾パンにつながる大きな転換点となったのが、江戸時代です。
三立製菓の資料によると、1842年、伊豆韮山の代官だった江川太郎左衛門が、非常時に備えた保存可能な軍用の携帯食としてパンを焼き始めたことが、日本のカンパンの始祖とされています。
当時の日本では、外国から入ってくる文化や技術への関心が高まっていました。
パンもその一つで、長期間保存できる軍用食として研究されるようになります。
パンは通常、そのままでは水分を含んでいるため、時間が経つと傷みやすい食品です。
そこで、保存性を高めるために焼き上げ、水分を少なくした食品が作られました。
現在の乾パンのイメージにつながる「硬くて乾燥したパン」は、こうした軍用の携帯食として発展していったのです。
乾パンは軍用食として発展した
江戸時代末期から明治時代にかけて、日本では軍用の携帯食としてさまざまな食品が考案されました。
三立製菓の公式資料では、水戸藩の「兵糧丸」、長州藩の「備急餅」、薩摩藩の「蒸餅」なども、非常時に備えた軍用パンとして紹介されています。
つまり、現在の乾パンは、日本における「兵糧」「携帯食」の流れを受けて発展してきた食品ともいえます。
戦場や移動中などでは、炊飯や調理をするための環境が整っているとは限りません。
そのため、
・軽くて持ち運びやすい
・保存しやすい
・調理せず食べられる
・一定のエネルギーを補給できる
といった条件を満たす食品が必要とされました。
乾パンが持つ特徴は、まさにこうした用途と相性のよいものでした。
明治時代には海外からも影響を受けた
乾パンの歴史には、日本国内での研究だけでなく、海外の軍用食も関係しています。
三立製菓の資料によると、1877年の西南戦争の際、兵糧に困った官軍がフランス軍艦からカンパンの援助を受けた記録があるとされています。
当時のカンパンは「ビスコイド」と呼ばれていました。
「ビス」は2回、「コイド」は焼くことを意味する言葉として説明されています。
その後、日清戦争を経てカンパンの重要性が改めて認識され、軍は技師をヨーロッパへ派遣。
ドイツ式の横長ビスケットを参考にした「重焼パン」が採用されたとされています。
こうして日本のカンパンは、国内の携帯食文化と海外の軍用ビスケットの影響を受けながら、現在の形へと近づいていきました。
「重焼パン」から「カンパン」へ名前が変化
乾パンの歴史を調べると、「乾パン」という名前になるまでにも変化があったことが分かります。
当時は「重焼パン」と呼ばれていましたが、「重焼」という名称が「重傷」を連想させるとして避けられるようになり、その後「乾麺麭(かんめんぽう)」という名称に改められたとされています。
さらに名称が変化し、最終的に「カンパン」と呼ばれるようになりました。
「麺麭」はパンを意味する言葉です。
そのため、「乾麺麭」という名称は、文字通り乾燥させたパンを表す名前だったと考えられます。
現在では一般的に「乾パン」と漢字で表記されることが多くなっていますが、その背景には、このような歴史的な名称の変化があります。秋の味覚を楽しみたい人は「さつまいもド」、チョコレート系のスイーツを楽しみたい人は「ポン・デ・ショコラ」というように、気分に合わせて選ぶのもよいでしょう。
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乾パンはなぜ硬くて乾燥している?
乾パンの特徴といえば、普通のパンとは大きく異なる硬さです。
この硬さは、乾パンの保存性と深く関係しています。
食品は一般的に、水分が多いほど微生物などの影響を受けやすく、保存期間を長くすることが難しくなります。
そこで乾パンは、焼成によって水分を減らし、保存しやすい状態に仕上げられています。
現在の保存用乾パンも、保存性を高めるためにさまざまな工夫が施されています。
たとえば三立製菓の保存用乾パンでは、個包装内に脱酸素剤を封入し、保存期間5年を実現しています。
「硬いから食べにくい食品」というよりも、「硬く焼き上げて水分を少なくすることで、保存食としての性質を持たせた食品」と考えると、乾パンの特徴が分かりやすくなります。
乾パンにはなぜ氷砂糖が入っている?

乾パンの缶を開けると、小さな氷砂糖が入っている商品を見かけることがあります。
「なぜパンの中に砂糖が入っているの?」と疑問に思う人もいるでしょう。
三立製菓によると、氷砂糖には糖分を補う目的があるほか、氷砂糖をなめながら乾パンを食べることで、口内の唾液が分泌され、水なしでも食べやすくなるという役割があります。
また、乾パンの歴史をたどると、軍用食として糖分を補うための工夫も行われていました。
三立製菓の歴史資料では、かつて白い金平糖を乾パンと一緒に入れる試みが行われたものの、白色が氷を連想させるとして不評だったため、色付きの金平糖を採用したというエピソードも紹介されています。
乾パンと氷砂糖の組み合わせには、単なるおまけではなく、保存食としての工夫が込められているのです。
現在の乾パンはどのくらい保存できる?
現在の保存用乾パンには、長期保存を想定した商品があります。
三立製菓の保存用乾パンでは、保存期間が5年とされています。
また、缶内の空気を脱気し、脱酸素剤を封入することで保存性を高めています。
長期保存できることは、非常食として大きなメリットです。
災害はいつ発生するか分からないため、すぐに食べる食品とは異なり、長期間保管できる食品が備蓄に向いています。
ただし、保存期間や賞味期限は商品によって異なるため、購入した乾パンのパッケージに記載されている期限を確認することが大切です。
乾パンが非常食として定番になった理由
乾パンが非常食として長く親しまれてきた理由には、いくつかの特徴があります。
調理せず食べられる
乾パンは基本的に開封してそのまま食べられます。
災害時には、電気・ガス・水道などのライフラインが使えなくなる可能性があります。
そのため、火を使った調理が必要ない食品は備蓄食として扱いやすいでしょう。
三立製菓も、乾パンの特徴として「調理不要」「容器不要」「用具不要」「食器不要」を挙げています。
コンパクトに保管できる
乾パンは水分が少なく、比較的コンパクトな食品です。
保存用の商品は缶などにまとめられているため、家庭で備蓄しやすい点も特徴です。
防災用品は食品だけでなく、水や衛生用品、照明器具など多くのものを保管する必要があります。
そのため、限られたスペースに収納しやすい食品は備蓄との相性がよいといえます。
長期保存しやすい
乾パンは保存性を重視して作られているため、長期間の備蓄に向いています。
商品によっては5年間保存できるものもあり、頻繁に買い替える必要がない点も特徴です。
持ち運びやすい
もともと軍用の携帯食として発展してきた乾パンは、持ち運びやすさも重要な特徴です。
災害時には、自宅だけでなく避難所や移動中などで食事を取る可能性があります。
そのまま持ち運んで食べられる乾パンは、こうした場面でも扱いやすい食品です。
乾パンだけを備蓄すればいい?

乾パンは便利な非常食ですが、非常時の食事をすべて乾パンだけでまかなう必要はありません。
現在では、レトルト食品、缶詰、アルファ化米、保存用パン、フリーズドライ食品など、さまざまな防災食が販売されています。
江崎グリコの防災食に関する情報でも、災害時にはエネルギーだけでなく、たんぱく質やビタミン、ミネラル、食物繊維なども意識することが紹介されています。
そのため、乾パンだけを大量に備蓄するのではなく、複数の食品を組み合わせておくことが大切です。
たとえば、
・乾パン
・アルファ化米
・レトルト食品
・缶詰
・保存用パン
・野菜ジュース
・水
などを組み合わせれば、食事の選択肢を増やせます。
「非常食=乾パン」というイメージは昔からありますが、現在の防災食はかなり多様化しています。
非常食は「食べ慣れておく」ことも大切
非常食を備蓄するときは、賞味期限だけでなく、実際に食べられるかどうかも確認しておきたいポイントです。
江崎グリコの防災セミナーでは、普段から苦手だと感じている食品は、災害時にはさらに苦手に感じる可能性があるため、普段からおいしいと感じる食品を備えることが大切だと紹介されています。
乾パンも同様です。
「非常食だから仕方なく食べるもの」と考えるのではなく、一度食べて味や硬さを確認しておくと、実際に必要になったときにも安心です。
また、普段から食べることで賞味期限の確認もしやすくなります。
乾パンの賞味期限が近づいたらどうする?
非常食を保管していると、いつの間にか賞味期限が近づいていることがあります。
そのまま放置して期限を切らしてしまうより、期限が近づいた食品を普段の生活で食べ、新しいものを買い足す方法もあります。
いわゆる「ローリングストック」の考え方です。
江崎グリコも、防災備蓄品について「そのまま食べられるものを選ぶ」「定期的に食べ慣れておく」「備蓄食品を一か所にまとめて保管する」といったポイントを紹介しています。
乾パンだけでなく、普段から食べられる保存食品を組み合わせておけば、賞味期限を管理しながら備蓄を更新しやすくなります。
乾パンは「昔ながらの非常食」から現在の防災食へ
乾パンは、昔から変わらないように見える食品ですが、その歴史をたどると、時代に合わせて改良されてきたことが分かります。
江戸時代には軍用の携帯食としてパンが焼かれ、明治時代には海外の軍用ビスケットの影響も受けながら改良が進められました。
その後、「重焼パン」「乾麺麭」などの名称を経て、現在の「カンパン」へとつながっています。
そして現在では、脱酸素剤や包装技術などを活用し、5年間保存できる商品も登場しています。
長い歴史の中で、「持ち運びやすい」「保存しやすい」「調理せず食べられる」という乾パンの基本的な特徴は受け継がれているのです。
まとめ
非常食の定番として知られる乾パンは、単なる防災用のお菓子ではありません。
そのルーツは、古くから日本で利用されてきた携帯食にまでさかのぼります。
現在の乾パンにつながる大きなきっかけとなったのが、1842年に江川太郎左衛門が非常時に備えた軍用の携帯食としてパンを焼き始めたことです。
その後、海外の軍用ビスケットなどの影響を受けながら改良され、「重焼パン」「乾麺麭」などを経て、現在の「カンパン」へと発展しました。
乾パンが非常食として長く利用されてきた理由は、
・調理せず食べられる
・コンパクトで持ち運びやすい
・長期保存しやすい
・常温で保管できる
といった特徴にあります。
現在の保存用乾パンには、5年間保存できる商品もあり、脱酸素剤などを使って保存性を高めています。
また、乾パンと一緒に入っていることがある氷砂糖にも、糖分を補うだけでなく、唾液の分泌を促して乾パンを食べやすくするという役割があります。
ただし、現在の防災食は乾パンだけではありません。
アルファ化米、缶詰、レトルト食品、保存用パン、野菜ジュースなど、さまざまな食品が登場しています。
災害時の食事を考えるなら、乾パンをはじめとした複数の食品を組み合わせ、普段から食べ慣れておくことも大切です。
昔は軍用の携帯食として生まれ、現在は家庭の防災備蓄として身近な存在になった乾パン。
「なぜ非常食といえば乾パンなのか」を知ると、いつもの乾パンも少し違って見えてくるのではないでしょうか。

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