【スマイラー127号ピッツァ特集】ピザは成功のための「ツール」 「PST」玉城翼が描く、成功への20年計画

店主の声

「PST(ピッツァ・スタジオ・タマキ)」東麻布店は、港区にある。代表の玉城翼氏は、ピザ職人への憧れから始まったキャリアではない。
20代、無報酬の付き人生活を終えることになった時、「最も稼げそう」という理由で選んだ。
「お金がなければ自由な時間もない」と痛感し、そこから20年単位で自身の人生と事業を設計。着実に独立・ブランド化・海外展開へと歩みを進めてきた。
「ピザは成功のためのツール」と語る玉城氏は、なぜピザを選び、何を目指してきたのか。

苦節6年・付き人生活。
「ピザ」で身を立てる決意

生地の耳が均一でないのが特徴

沖縄出身の玉城氏は芸能界を目指して上京。20才の頃だ。
「僕、『いっこく堂』※脚注①がいとこで、彼と同じフィールドで仕事がしたいと思ったんです」
縁あって、俳優の安岡力也※脚注②の付き人兼運転手となった。無報酬だったため、水道工や配達員、ピザ店など、複数のアルバイトを掛け持ちした。
「空いた時間に働いて、寝ずにやっていましたね」
しかし6年後、師匠が病で倒れ、師弟生活が途絶えた。
「僕は好きだから無償でやっていましたが、力也さんが倒れてしまってお先真っ暗になった。それで一番稼げそうなのは何か、となって一番理にかなっていそうなのはピザかな、2分で伸ばして焼いて1500円取れるなんて最高じゃん、と」

幼い頃に食べたアメリカ発チェーン店の重たいイメージがあり、実はピザがあまり好きではない、と話す玉城氏。しかし図工が大好きだった氏にとってピザ作りは「粘土遊びのようで楽しかった」と語る。
「仕事として本気でやれば楽しんで稼げるからいいなと思いました」
こうして2006年、ナポリピッツァの名店『SAVOY(サヴォイ)※脚注③』に志願して入店。26才でピザ職人として新たな出発をする。


脚注①
【いっこく堂】沖縄県出身の腹話術師。唇を動かさない高度な技術や「時間差腹話術」などで従来のイメージを一新した。国内外で高い評価を受け、世界を舞台に活躍する日本の腹話術界の第一人者。
脚注② 
【安岡力也】1947年~2012年。歌手を経て俳優へ転身。ハリウッド映画『ブラック・レイン』に出演するなど強面な悪役として活躍する一方、バラエティ番組の「ホタテマン」役でも絶大な人気を博した個性派俳優。
脚注③
【SAVOY(サヴォイ)】1995年に柿沼進氏が中目黒で創業し、ナポリピッツァブームを牽引した店。ジャスティン・ビーバーもお忍びで訪れた名店「聖林館」の前身としても知られ、現在は麻布十番や目黒などに店舗を構える。

人生を成功に導く「20年計画」

看板商品の『Pizza Tamaki』

同店のピザはナポリピッツァとは「全く別のカテゴリー」。ところどころ膨らんで焦げた特徴的な耳は、修業時代に余った生地で試作を重ねて考案。これが現「Japanese Pizza(ジャパニーズ・ピッツァ)」の形と言われる始まりである。
「耳をいじってうねらせて、焼いてみるとポコポコして面白い。これをちょっとやっていこうと考えていたら師匠の先輩に『君、何やってんの、うちはこういうピザじゃない』って。『僕は雲のようにふわふわしたピザを作りたいんです』 って言ったら呆れられて放っておかれましたね(苦笑)」

耳部分がふわふわしている

“見て覚えろ”の世界でひたすら試作を続け、やがて麻布十番の店長に。そこで自身のスタイルを前面に出した。
「僕は他人(ひと)の看板を使いながら、今僕がやっているスタイルをそのまま出していました(笑)」
職人気質の強い店で、サービスや管理の重要性を学んだ。店長になると常連客の名前を覚え、愛想よく話かけるなど接客を刷新。月商は3割近く伸びた。自由に任せてもらえた一方で、「やったらやっただけ報酬が欲しい」と考え、独立を意識するようになる。
当時、自身の新スタイルピザを『Pizza Tamaki(ピッツァ・タマキ)』として店で提供した。
「本当は出しちゃいけなかったんですけど。自分の名前を覚えて欲しかったんです」
当時から“ニューヨーク”が念頭にあった。
「目指すならニューヨークだと。そこを『ピッツァ・タマキ』の発信源にすれば、世界でブランド化できる。50年、100年後に名前を残したい。『ピザで一発当ててやる』ぐらいの気持ちでした」

出資者から集めた7000万円で麻布十番に出店

2011年、出資者を得て、麻布十番に『PIZZA STRADA(ピッツァ・ストラーダ)』を立ち上げ、運営まで任された。玉城氏30才の頃だ。
「うちにお客さんとして来ていた個人投資家に『世界一のピザ屋さんを作ってあげるから、金出してくれ』みたいに話してかき集めた7000万でお店を出しました」
この時期に独立開業の経験を積めたため、「現在の店を作るのは余裕」だったと話す。

氏の猛烈なハングリー精神と緻密な計画性は、20代の付き人時代に培われたものだ。
「お金もらってなかったからですね。金がないと時間が奪われて好きなこともできない。成功って人それぞれあると思うんですけど、僕は自分の時間が作れることが一番成功だと。その背景にはお金を稼げるということがある。だから収入が上がっていく経営者の道を40代ぐらいにセッティングすれば、これはもう成功者だと。そのためには独立をどんなことをしてでも35才までにしておきたかったんです」

ナポリとは違う、日本のピザを武器にする

10坪ほどの「PST」東麻布店

2017年、「PST(ピッツァ・スタジオ・タマキ)」を開業。海外から注目を集めるようになった。
「Japanese Pizza(ジャパニーズ・ピッツァ)」がナポリピッツァなどと肩を並べて別カテゴリーでありたいと願う玉城氏にとって、美味しいピザの基準は“軽さ”と“ジューシーさ”。
同店独自の生地に用いる粉は修業時代から試作を700通り近く繰り返し、完成させた。粉には国産の「秘密の粉」もブレンド。かかった歳月約18年。今秋からは、多店舗展開を見据え、水を加えれば同じ味を再現できる仕様に変更する。
“門外不出”の特製粉のアイデアは、アルバイト経験がある大手FC(フランチャイズ)フライドチキン店の手法を参考にした。
「海外でFC展開するなら他が真似できない武器を持っておかなきゃいけない。日本人って舐められ裏切られることもあるだろうから、供給源を止めるといった“足かせ”を作っておくべきと思ったんです」

秘伝のオリジナルブレンド粉

インスタグラムで各店のピザは常にチェック。色付き、耳の膨らみやチーズの溶け方といった見た目が氏の基準に合わないものがあればすぐ電話して指導する。一方で、海外展開を決めた時、“妥協の心”を身に付けた。
「ある程度のラインから下回らない技術力とバランスは教え込んでいますが、世界各店舗の味はおそらく違うと思います。ただいつでも見ているということは常に分からせておかないといけない」

若者を海外へ送り出す理由
玉城流の人材育成

ニューヨーク店。予約が取れにくいほどの人気

2024年以降、海外店舗展開を進め、今年で6店舗目。弟子のピザ職人が海外で活躍する。海外を志す若手が投資家に利用される事例を見てきた氏は、社内に残るよう説く。
「別の店に移るだけならここに残って海外を目指しなさい。僕も海外店舗を増やせるし、ウィンウィンなんだと。それで彼らの中で区切りをつけて海外でステイすると決めながらみんな飛び立っていく。すると彼らは勇気も実力も考え方も全部変わってくるので、独立すると思ったら、給料もいいので長く働いてくれるんです(笑)」

玉城氏は自身の年収を公開し、若手に長期的な人生設計を考えさせている。
「夢を見させないと若い子たちは残らないです。25才くらいの彼らに『僕の考えと話をしっかり聞いて実践すれば、おそらく35才くらいで僕と同じ年収が得られる人間になれるから、3年、5年ではなく10年、20年先を逆算しながらやりなさい』と日頃から話し、育て、海外の“精鋭部隊”を作って、僕が当時独立する前に挑戦したかった海外でやらせてあげて戻ったら好きなようにお店を作っていけばいい、と」

僕を超える人間」を育てたい

現在46才の玉城氏の最終目標は、会社の売却だ。
「俺が会社を売却したら巨額な資金が入って来る。それでもってお前たちに投資してやるから一生懸命頑張りなさい。でも俺はこの会社を売ったとしても“ピッツァ・スタジオ・タマキ”だから残り続けるよ、と」
経営管理から離れ、職人に戻りたい。現在は新しいピザ業態やクラフトコーラなどにも挑戦しており、しばらくはマネジメントを続ける。
「経営のゴールとして6号目付近にいるかもしれないです。職人としてはなまりますね。もう今は弟子の彼らの方が技術は高いと思います。でも全然いいんです。そこはそもそも捨てていますから」

将来は、海外で経験を積んだ弟子に“のれん分け”してPSTの店舗拡大を担う経営者に育てたい。 
「彼らを経営者の卵としてしっかり育てて、いい奴らになっていく。彼らが僕を超える日はいつなんだろう、僕を超える人間は誰なんだろうというのがとても楽しみなんです」


(取材協力)

会社名:TK advance株式会社
住所:東京都港区東麻布1―24―6―105

(店舗情報・PST東麻布本店)

席数:36席
坪数:20坪(延べ坪)
客単価:4800円
原価率:24.5%
月商:平均2300万円
人件費率:8.7%
家賃比率:2.3%


取材・文:高山浩子 
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。

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