早稲田の学生街の一角に、2024年にオープンしたラーメン店「shizuku」。店を切り盛りするのは、店主の綾乃さん。
ラーメンの世界に身を投じた綾乃さんは、別の店舗での経験を経て、次なる研鑽の場として名店「無冠(むかん)」の門を叩いた。最初から「独立したい」という目標を師匠に伝え、そこで修業の日々を送った。そこで叩き込まれたのは、お客さんが幸せになれる空間をどう作るか、美味しいものを届けるための商品管理、そしてラーメンの基礎。つまりはラーメン屋としての「心構え」だ。約束した期間をきっちり勤め上げ、師匠に「行ってこい」と送り出されて、いよいよ自分の城を持つことになった。

物件探しは、まさに縁だった。百名店にも選ばれた早稲田の名店「厳哲」が閉店するという投稿をXで見つけ、すぐに内見へ。前店主が長い年月をかけて作り込んだ厨房は、動線がよく考え抜かれていて惚れ込んだ。しかも「飲食を頑張りたい若者を応援したい」という前店主の思いから、破格の条件で設備を譲り受けることができた。先輩の志ごと引き継いだこの場所で、綾乃さんの物語が始まった。

「女性が一人でも気軽に入れるラーメン屋にしたい」。それが「shizuku」のコンセプトだ。どんぶりがカウンターに届いた瞬間、「わあ」と声が漏れるような盛り付けを、スタッフと一緒に日々磨いている。見た目だけじゃない。スープの温度が下がるにつれて麺の食感がどう変わるかまで計算して、毎日試食を欠かさない。学生街にありつつも、ターゲットはあえて30代から50代の大人。長期休暇で学生がいなくなっても揺るがない土台を、しっかり作り上げた。

グルメサイトの評価も順調に伸びているが、綾乃さんの目はもっと上を向いている。修業先の師匠の店がどれだけ高い評価を得ているか、身をもって知っているからだ。目指すは「百名店」。近くのホテルに泊まる海外からのお客さんや留学生も来てくれる。友人に協力してもらい、英語メニューも用意した。ホテルにチラシを置いてもらおうとして断られたこともあるけれど、めげずに工夫を重ねている。

将来の話になると、綾乃さんの表情がぱっと明るくなった。今の「shizuku」を大事に育てながら、いずれは「男の人がガツンと満足できて、でもスタイリッシュで綺麗な店」も出したい。一杯のラーメンに「心構え」を注ぎ続ける綾乃さんの挑戦は、まだまだこれからだ。
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Photographer:林 りりす
name:木戸 綾乃
shop:「Shizuku」
東京都新宿区西早稲田1丁目10−4 早稲田の杜ハイツ
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