「値上げしたいけど、客離れが怖い」
これは多くの飲食店経営者が、いつか必ずぶつかる悩みです。
原価は上がり続け、人件費も光熱費も下がる気配はない。
それでも「うちは値上げできる雰囲気じゃない」と感じてしまう店は少なくありません。
一方で、同じ環境でも自然に価格改定を重ね、むしろファンを増やしている店も存在します。
この差は、勇気や交渉力の違いではありません。
ほとんどの場合、「開業時の設計」の差です。
今回は、「値上げできる店」がオープン前から仕込んでいる構造を、開業志向の方にも分かる形で整理していきます。

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目次
■ なぜ多くの店は「値上げできない構造」で開業してしまうのか

開業相談をしていると、「値上げはいつか考えます」という言葉をよく聞きます。
しかし実際には、ほとんどの店は“いつか”を迎える前に、値上げできない構造で固まってしまっています。
値上げが難しくなる原因は、経営努力や勇気の問題ではありません。
多くの場合、開業準備の段階で「価格が動かせない前提」の設計をしてしまっていることにあります。
● 開業時に起きやすい価格設計の勘違い
開業時は、どうしても「集客できるか」が最優先になります。
その結果、価格は次のような決め方になりがちです。
・近隣相場より少し安くする
・原価率から逆算する
・とりあえず入りやすい価格にする
これらは一見合理的に見えますが、共通点があります。
それは「後で動かす前提がない」という点です。
この決め方で開業すると、価格は単なる数字ではなく「店との約束」になります。
その約束を変更する行為が値上げになるため、心理的にも構造的にもハードルが極端に高くなります。
● 「集客起点」で作ると価格は縛りになる
値上げできない店ほど、開業時にこう考えています。
「まず来てもらわないと始まらない」
「高いと誰も来ないのではないか」
その結果、
・安さ
・量
・分かりやすさ
を前面に出した設計になります。
この時点で、価格は「選ばれる理由」そのものになります。
選ばれる理由になっているものは、後から変えられません。
つまり、集客起点で価格を置くと、その瞬間に値上げ耐性は大きく下がってしまいます。
● 値上げできない店は「固定前提」で作られている
もう一つの共通点は、「変わらない店」を前提に設計していることです。
・メニューが完成形
・価格が完成形
・業態が完成形
この状態でスタートすると、変化=改悪になりやすくなります。
一方、値上げできる店は最初から未完成前提です。
変わる余地、動かせる余白、調整できる構造を残したまま開業しています。
● 値上げできない理由は「勇気」ではなく「設計」です
値上げで悩む店ほど、「自分が弱いから」「言い出せないから」と考えがちです。
しかし現場で見ていると、問題はほぼ構造です。
・価格を動かすとコンセプトが壊れる
・一品上げると全体が崩れる
・上げた瞬間に来店理由が消える
この状態では、どれだけ覚悟があっても値上げは難しくなります。
値上げできるかどうかは、開業後の努力ではなく、開業前の設計でほぼ決まっています。
■ 値上げに耐えられる客層設計ができているか

値上げできるかどうかを決めている最大の要因は、料理でも原価でもなく「誰が来ているか」です。
価格の上限は、メニュー表ではなく客層によって決まっています。
● 値上げに弱い客層の共通点
値上げが難しくなる店には、典型的な客層パターンがあります。
・近いから来ている
・安いから選んでいる
・量が多いから満足している
この場合、価格は「来店理由」そのものです。
値上げは、その理由を自分で消す行為になります。
その結果、「客が離れるのが怖くて上げられない」のではなく、「構造的に上げられない」状態が生まれます。
● 値上げに耐える客層は“目的来店”です
一方、値上げできる店に共通するのは、目的を持って来る客が多いことです。
・この料理が食べたい
・この店の空気が好き
・この人の店だから来る
・この時間を過ごしたい
この場合価格は「条件の一つ」にすぎません。
来店理由の中心が価格以外にあるため、価格が動いても関係性は簡単に切れません。
この状態を作れるかどうかが、値上げ耐性を決定づけます。
● 客層は「開業時」にほぼ固定されます
重要なのは、客層は自然発生しないという点です。
ほぼすべてが、開業前後の設計で決まります。
・立地(生活導線か、目的地か)
・業態(代替が効くか、専門性があるか)
・価格帯(誰にとって“ちょうどいいか”)
・店名・外観・打ち出し
これらはすべて、どんな人が入ってくるかのフィルターです。
開業時に「誰でも来てほしい」と設計すると、結果として「値段で選ぶ人」が最も多く集まります。
● 客層設計は価格戦略そのものです
「料理が良ければ、客はついてくる」これは半分正しく、半分危険です。
料理が良くても、
・安さ目的の客
・近さ目的の客
が中心であれば、価格は上げられません。
値上げできる店は、「誰に来てほしいか」を先に決め、「その人が納得する価格帯」を後から置いています。
順番が逆になると、価格は足かせになります。
● 値上げできるかは、開業前の“人選”で決まる
値上げできるかどうかは、将来の交渉力ではありません。
開業時に、どんな人を選んだかの結果です。
客層は集めるものではなく、選ぶものです。
その選択が、数年後の価格の自由度を決めています。
■ メニュー構成が「価格改定できる形」になっているか

値上げができない店を見ていくと、メニューに共通した特徴があります。
それは、「どれも主力商品」になっていることです。
● 「全部が看板商品」の危険性
開業時は思い入れが強くなり、
・全部おすすめ
・全部売りたい
・全部主力
という構成になりがちです。
この状態では、どの商品を動かしても「店の顔」を変えることになります。
一品値上げするだけで、コンセプトが崩れたように感じさせてしまいます。
結果として、「どこも上げられない」という状態が生まれます。
● 値上げできないメニュー構造の典型
値上げに詰まるメニューには、いくつかの共通点があります。
・価格帯が一段しかない
・原価に強く引っ張られている
・単品完結で構成が動かせない
・代替・移動ができない
この構造では、価格改定は常に「全面改定」になります。
小さく動かすことができず、結果として先送りになります。
● 値上げできる店は「役割」でメニューを作っています
値上げできる店のメニューは、料理名ではなく役割で設計されています。
・集客商品(入り口)
・利益商品(利益を作る)
・調整商品(価格を動かす)
この分離があることで、
・上げやすい商品
・入れ替えやすい商品
・構成で単価が変わる商品
が生まれます。
値上げは「全部を上げること」ではなく、「動かせる場所を持っているかどうか」です。
● 「並び方」が価格耐性を決めます
同じ料理でも、並び方次第で価格改定の難易度は大きく変わります。
・価格帯に段差がある
・盛り合わせやセットがある
・サイズ・グレード違いがある
・限定や季節商品がある
これらはすべて、価格を直接いじらずに単価を動かせる装置です。
値上げできる店は、「何を出すか」より「どう並べるか」を先に設計しています。
● メニューは「売る表」ではなく「経営の装置」です
メニューは、注文を取る紙ではありません。
経営をコントロールする装置です。
◎価格改定できないメニューは、「完成品」として作られています。
◎価格改定できるメニューは、「可動部品」として作られています。
この違いが、数年後の自由度を決定づけます。
■ 「値上げの理由」が自然に生まれる店内構造・オペレーション
値上げで揉める店と、受け入れられる店の違いは明確です。
それは、「値上げが説明になるか」「現象になるか」です。
● 値上げが荒れやすい店の共通点
値上げが問題になりやすい店には、共通した構造があります。
・変化が見えない
・手間が伝わらない
・店が止まって見える
この場合、客が認識できる変化は「価格」しかありません。
そのため、値上げは「理由のない値上げ」になります。
どれだけ裏側で努力していても、伝わらなければ存在しないのと同じです。
● 値上げ理由が自然に生まれる店の特徴
値上げが受け入れられる店は、日常の中に変化と情報があります。
・仕込みや調理工程が見える
・季節や限定で常に動きがある
・食材や工程の背景が語れる
・「前と違う」が体験できる
こうした店では、値上げは単なる価格変更ではなく、「進化」「更新」「深化」の一部になります。
結果として、「高くなった」ではなく「良くなった」という認識が生まれやすくなります。
● 店内構造とオペレーションが「語る装置」になる
値上げ理由は、ポスターで作るものではありません。
日常の店内体験から生まれます。
・厨房が見えるか
・どこで手間をかけているか
・何が変わり続けているか
・スタッフが何を語れるか
これらはすべて、開業時の設計で決まります。
厨房を閉じれば工程は消えます。
固定メニューだけにすれば変化は止まります。
動線を切れば物語は断絶します。
逆に、構造があれば、理由は勝手に発生します。
● 「説明しなくて済む」状態を作れるか
値上げできる店は、張り紙で説得しません。
・最近メニューが変わっている
・仕込みが大変そう
・前より美味しくなっている
・新しい挑戦をしている
こうした蓄積があるため、値上げは「そうだろうな」という結果になります。
値上げの瞬間だけで納得させようとすると必ず歪みます。
日常の中で、納得が積み上がっているかがすべてです。
● 値上げ耐性は「現場設計」で決まります
値上げ理由を生む力は、マーケティングではなく現場にあります。
▶どこを見せるか。
▶どこを変え続けられるか。
▶どこに手間を残すか。
これらを開業時に仕込めているかどうかが、数年後の価格自由度を決定づけます。
■ 開業時にやっておくべき“逃げ道”設計
値上げができなくなる店の多くは、「価格を上げられない」のではなく、「他に手がなくなっている」状態に陥っています。
この状態を避ける鍵が、開業時に仕込む“逃げ道”設計です。
● 逃げ道がない店は「詰みやすい」
逃げ道がない店には、共通した構造があります。
・客単価が一段しかない
・量も内容も固定されている
・メニュー変更が世界観を壊す
・削れるコストが残っていない
この状態で原価や人件費が上がると、残された選択肢は「値上げするか、我慢するか」だけになります。
この二択になると、経営は一気に苦しくなります。
● 逃げ道とは「値上げ以外で利益を守る道」です
逃げ道とは、安売りのことではありません。
価格を変えずに、実質を調整できる余地のことです。
たとえば、
・量で調整できる
・構成で単価が動く
・グレード違いがある
・時間帯別の商品がある
・限定や入替が前提になっている
これらはすべて、「いきなり値上げしなくても済む道」であり、同時に「値上げを穏やかにする緩衝材」でもあります。
● 逃げ道は後から作れません
営業が始まってから逃げ道を作ろうとすると、「前と違う」「劣化した」「迷走している」という印象を与えがちです。
逃げ道は、
・図面
・業態
・メニュー構成
・オペレーション
を決める段階でしか、自然に組み込めません。
最初から可変前提で作っている店だけが、調整しても“進化”に見せることができます。
● 逃げ道がある店は「選択肢」が多い
逃げ道がある店は、苦しくなった時に考えることが違います。
「上げるか我慢するか」ではなく、「どこを動かすか」「どこで吸収するか」「どこで作るか」という思考になります。
この状態を作ること自体が、開業設計の大きな役割です。
● “逃げ道”は保険ではなく戦略です
逃げ道は、守りの話に見えますが、実際は攻めの余白でもあります。
・新商品を出せる
・単価を育てられる
・客層を広げられる
・価格を段階的に動かせる
こうした展開ができる店ほど、結果的に値上げも穏やかになります。
値上げできる店は、値上げしか残っていない店ではありません。
逃げ道が複数ある店です。
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■ まとめ:値上げできるかどうかは、開業初日でほぼ決まっています
値上げは、経営者の度胸や交渉力の問題だと思われがちです。
しかし現場を見ていると、その認識はほとんどの場合当てはまりません。
値上げできるかどうかは、「その時どう判断するか」ではなく、「どんな店として始まったか」でほぼ決まっています。
● 値上げは“イベント”ではなく“結果”です
値上げで揉める店ほど、値上げを大きな決断として扱います。
一方、値上げできる店では、価格改定は経営調整の一つに過ぎません。
この違いを生んでいるのは、日々の構造です。
・値上げに耐える客層
・動かせるメニュー構成
・理由が生まれる現場
・逃げ道のある設計
これらが揃っている店では、値上げは「宣言」ではなく「自然な変化」になります。
● 「上げられる店」は、最初から上げなくていい店です
値上げできる店は、常に値上げをしているわけではありません。
むしろ、値上げしなくても吸収できる選択肢を持っています。
・構成で単価を作れる
・商品入替で実質調整できる
・グレードや用途で分散できる
その結果として、「上げても大丈夫な状態」が維持されます。
値上げできる力とは、値上げしか残っていない状態を避ける力です。
● 開業設計は、将来の価格自由度を決めています
開業時に決めることは、内装や設備だけではありません。
・誰を客にするのか
・何を動かせるのか
・どこで理由を作るのか
・どこに余白を残すのか
これらはすべて、数年後の価格の自由度を決めています。
開業初日はスタートではなく、すでに価格戦略はかなりの部分が確定しています。
● 値上げできるかではなく、値上げが選択肢にあるか
これから開業する方にとって重要なのは、「将来値上げできるか」ではありません。
「将来、値上げが“選択肢の一つ”として残っているか」です。
そのためには、安さで選ばれる店ではなく、理由で選ばれる店を設計すること。
固定された完成形ではなく、動かせる構造で始めること。
それが、長く続く店の価格戦略です。
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