クーポンって本当に効く?―スタンプカードは売上を伸ばすのか

経営ノウハウ

「とりあえずクーポンを作ってみた」
「他店がやっているからスタンプカードを始めた」

飲食店の現場では、こうした“なんとなく販促”が少なくありません。
しかし実際には、クーポンやスタンプカードは店の状況によっては逆効果になることもあります。

本記事では、飲食店の経営者・これから開業を目指す方に向けて、

「クーポン・スタンプカードは本当に効果があるのか?」
「やるなら、どう設計すべきか?」

を、原価・オペレーションの視点も交えて整理します。

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目次

■ そもそもクーポン・スタンプカードは何のための施策か?

クーポンやスタンプカードを導入する際、最も多い失敗は「周りがやっているから」「作れば効果が出そうだから」という理由で始めてしまうことです。

これらは便利な販促ツールではありますが、目的を誤ると売上や利益を下げてしまう施策にもなります。

まずは、それぞれが担う役割を正しく理解することが重要です。

● クーポンは「来店のきっかけ」を作るための施策です

クーポンの最大の役割は、「今日はこの店に行ってみよう」と思わせる行動の後押しにあります。
新規客や、しばらく足が遠のいていた顧客に対して、来店のハードルを下げる効果があります。

一方で、クーポンは基本的に値引き要素を含むため、使い方を間違えると利益を圧迫します。

特に、原価率が高い業態や、すでに来店客数が十分な店では、「売上は増えたけれど利益が残らない」という状態になりやすい点に注意が必要です。

● スタンプカードは「再来店頻度」を高めるための施策です

スタンプカードの目的は、すでに一度来店した顧客に「また来よう」と思ってもらうことです。
つまり、固定客化を促進するための仕組みといえます。

重要なのは、スタンプカードは「満足度が一定以上ある店」でなければ効果を発揮しないという点です。
料理や接客に不満がある状態でスタンプカードを配っても、次の来店にはつながりません。

まずは商品力と体験価値が土台にあることが前提になります。

● 目的を混同すると、施策はうまく機能しません

よくある失敗が、「集客も固定客化も、これ一つで何とかしよう」とする考え方です。
しかし、クーポンとスタンプカードは役割が異なるため、同じ設計で運用すると効果がぼやけます。

クーポンは短期的な来店促進、スタンプカードは中長期的な関係構築。

この違いを意識し、「いま自店が解決すべき課題は何か」を明確にしたうえで選択することが、販促成功の第一歩になります。

● 導入前に必ず考えておきたい視点

施策を始める前には、次の点を整理しておく必要があります。

・新規客を増やしたいのか
・来店頻度を上げたいのか
・客単価を維持したまま回転を上げたいのか

目的が定まれば、クーポンなのか、スタンプカードなのか、あるいは導入しないという判断も含めて、最適な選択が見えてきます。

販促は「流行っているか」ではなく、「自店に合っているか」で考えるべき施策です。

■ 効果が出る店/出ない店の決定的な違い

クーポンやスタンプカードは、正しく設計すれば効果的な販促施策になりますが、すべての店で同じ結果が出るわけではありません。

実際の現場では、「やって正解だった店」と「やらない方がよかった店」がはっきり分かれます。
その違いは、立地や業態だけでなく、店の営業構造そのものにあります。

● 効果が出やすい店の共通点

クーポンやスタンプカードが機能しやすいのは、日常利用される店です。
具体的には、定食屋、カフェ、テイクアウト専門店などが該当します。

こうした店は、

・客単価が比較的低い
・来店頻度が高い
・「また来る前提」で選ばれやすい

という特徴があります。

スタンプカードによって「あと2回来れば特典がもらえる」という心理が働きやすく、再来店につながりやすいのです。

● 効果が出にくい店の特徴

一方で、クーポンやスタンプカードがほとんど意味を持たない店もあります。

例えば、

・観光客中心で再来店が期待しにくい立地
・高単価で記念日利用が多い業態
・予約で常に席が埋まっている繁盛店

などです。

これらの店では、「安くなるから行く」という動機よりも、体験価値や希少性が重視されます。
無理にクーポンを出すと、ブランド価値を下げるリスクもあります。

● 客単価と来店頻度のバランスが鍵になります

効果の有無を左右する最大のポイントは、「客単価」と「来店頻度」の組み合わせです。
客単価が高く、来店頻度が低い店では、スタンプが貯まる前に顧客が離脱します。

逆に、客単価が低く、来店頻度が高い店では、少額の特典でも十分に動機づけが可能です。

自店の数字を把握せずに導入すると、「スタンプが全然貯まらない」「クーポン目当ての客ばかり増えた」といった結果になりがちです。

● 繁盛店ほど注意が必要な理由

意外に思われるかもしれませんが、すでに忙しい店ほどクーポン施策には注意が必要です。
客数が増えても、厨房やホールが回らなければ、サービス品質が下がり、結果的に常連を失う可能性があります。

「売上を増やしたい」のか、「利益と満足度を守りたい」のか。
この視点を持たずに導入すると、効果が出ないどころか、マイナスになることもあります。

● 自店が向いているかを見極める視点

クーポンやスタンプカードを導入する前に、

・再来店が現実的に期待できるか
・現場の余力はあるか
・単価を下げる必要が本当にあるか

を冷静に見極めることが重要です。

効果が出るかどうかは、施策の良し悪し以前に、店との相性でほぼ決まります。
まずは自店の立ち位置を把握することが、失敗を防ぐ最短ルートです。

■ 原価・オペレーション視点で見る“やってはいけない設計”

クーポンやスタンプカードが「効かない」「むしろ負担になる」と感じる店の多くは、設計段階で現場視点が抜け落ちているケースがほとんどです。

販促は数字と現場の両立が前提です。
ここでは、実際によくある“やってはいけない設計”を整理します。

● 値引き率が高すぎるクーポン設計

最も分かりやすい失敗が、大幅な値引きを前提としたクーポンです。

「10%オフ」「500円引き」は一見集客力がありそうですが、原価率が高い飲食店では、利益を直接削る施策になります。

特に注意したいのは、

・原価率30%以上の業態
・客単価が低い店

です。

売上は増えても、忙しさだけが増え、手元に残る利益が減るという状態に陥りやすくなります。

● 厨房負荷を無視したスタンプ特典

スタンプ満了時の特典として、「手間のかかる一品」や「仕込みが必要なメニュー」を設定するのも避けたい設計です。

繁忙時間帯に特典注文が重なると、

・提供時間が延びる
・通常客への対応が遅れる
・スタッフのストレスが増える

といった悪循環が起こります。

特典は、通常オペレーションの延長線で提供できるものに限定すべきです。

● 忙しい時間帯にしか使えない条件設定

「ランチタイム限定」「金土不可」など、条件を厳しくしすぎる設計も逆効果です。
使いにくいクーポンは、「得をした」という印象よりも、「面倒な店」という印象を残します。

結果として、再来店どころか印象を下げてしまうケースも少なくありません。

● 現場で説明できないルールを作ってしまう

細かすぎる利用条件や例外ルールは、スタッフの負担になります。
「このクーポンは使えますか?」という質問に、毎回確認が必要になる状態は、現場の混乱を招きます。

販促ルールは、誰が見ても、誰が説明しても同じ判断になることが重要です。

● 数字を確認せずに続けてしまう危険性

クーポンやスタンプカードは、導入して終わりではありません。

・利用率
・客単価の変化
・来店頻度の変化

を確認せずに続けると、効果がない施策を惰性で続けることになります。
販促は「やること」よりも「やめ時」を決めておく方が、経営的には重要です。

● “現場が楽になるか”を基準に考える

成功している店ほど、「この施策は現場が楽になるか?」という視点で設計しています。
原価を守り、オペレーションを壊さず、顧客満足度を下げない。

この3点を満たさない設計は、どれだけ見栄えが良くても、やってはいけない施策と言えるでしょう。

■ 効果が出やすいクーポン・スタンプ設計の考え方

クーポンやスタンプカードで成果を出している店に共通しているのは、「とりあえず配る」のではなく、数字と現場を踏まえて設計している点です。

ここでは、原価を守りながら再来店につなげるための、現実的な考え方を整理します。

● 「値引き」より「体験を足す」発想が基本です

効果が出やすい店ほど、割引額そのものを前面に出していません。
代わりに使われているのが、「体験追加型」の特典です。

例えば、

・小鉢一品サービス
・トッピング追加
・サイズアップ

などは、原価負担が小さい一方で、顧客の満足度を高めやすい特典です。

値段を下げるよりも、「少し得した」「気が利いている」と感じてもらえる設計の方が、再来店につながります。

● スタンプは「少し頑張れば届く」設定にします

スタンプカードで重要なのは、ゴールまでの距離感です。
10回来店で特典、期限1年などの設定は、実際には途中で忘れられてしまうことが多くなります。

おすすめなのは、

・5〜8回程度で特典
・有効期限は2〜3か月

といった、「現実的に達成できる」設計です。

スタンプが貯まる過程そのものが、来店動機になります。

● 配布タイミングは「初回」より「2回目」が有効です

初回来店時に渡すスタンプカードやクーポンは、印象に残りにくい傾向があります。
むしろ、2回目来店時に「よろしければこちらもどうぞ」と渡した方が、定着率は高くなります。

すでに一定の満足を得たタイミングで渡すことで、施策が意味を持ちます。

● 有効期限は“背中を押す”役割と考えます

有効期限は、制限ではなく行動促進のための仕掛けです。
長すぎる期限は忘れられ、短すぎる期限は使われません。

「次に来る理由」を作る期間として、

・クーポン:2〜4週間
・スタンプ:2〜3か月

を一つの目安にすると、運用しやすくなります。

● 原価と現場負荷を必ずセットで考えます

どれだけ魅力的な特典でも、

・原価率が上がりすぎる
・仕込みや調理が増える
・忙しい時間帯に負担が集中する

設計では長続きしません。

成功する設計とは、「続けても苦しくならない設計」です。
クーポンやスタンプは、売上を伸ばすための道具であって、現場を壊すものではありません。

■ 紙・デジタル・LINE…媒体選びで結果は変わる

クーポンやスタンプカードは、内容だけでなく「どの媒体で運用するか」によって、効果や負担が大きく変わります。

媒体選びを誤ると、良い設計でも活かしきれません。
ここでは、代表的な媒体ごとの特徴と選び方を整理します。

● 紙のスタンプカードが向いている店

紙のスタンプカードは、今でも多くの小規模店で有効です。

向いているのは、

・個人経営や小規模店舗
・常連客が多い
・年齢層が幅広い、または高め

紙は「財布に入れて持ち歩ける」「スタンプを押す行為自体が楽しい」という強みがあります。

一方で、紛失や管理の手間があるため、シンプルな設計が前提になります。

● デジタルスタンプ・アプリの特徴

専用アプリやデジタルスタンプは、利用履歴を管理しやすい反面、導入のハードルがあります。

向いているのは、

・複数店舗を展開している
・来店データを分析したい
・若年層の利用が多い

ただし、アプリのダウンロード自体が障壁になることもあり、「入れても使われない」ケースも少なくありません。

● LINEクーポン・LINEスタンプの現実的な使い方

LINEは、最も導入しやすいデジタル施策の一つです。
登録さえしてもらえれば、クーポン配信や来店促進が可能になります。

ただし注意点として、

・配信頻度が多すぎるとブロックされる
・安売り情報ばかりだと価値が下がる

というリスクがあります。

LINEは「特別感のある情報」を、必要なタイミングだけ届ける運用が効果的です。

● 開業初期と安定期で媒体は変えるべきです

開業直後は、紙のスタンプカードなど、説明が簡単で導入コストの低い媒体が向いています。
運用が安定し、常連客が増えてきた段階で、LINEやデジタルへ移行するのも一つの方法です。

最初から完璧を目指すより、店の成長に合わせて媒体を変える方が、結果的に無理なく続けられます。

● 媒体選びの基準は「続けられるかどうか」

最終的に重要なのは、

・スタッフが迷わず運用できるか
・お客様に説明しやすいか
・手間と効果のバランスが取れているか

という点です。

流行っている媒体よりも、「自店にとって無理なく続けられる媒体」を選ぶことが、クーポン・スタンプ施策を成功させる最大のポイントです。

■ まとめ:クーポンは「作るか」より「どう使うか」

クーポンやスタンプカードは、飲食店にとって身近な販促手法ですが、作っただけで成果が出るものではありません。

本記事で見てきたように、重要なのは導入の有無ではなく、使い方と設計の考え方です。

● クーポンは万能ではありません

クーポンを配れば集客できる、という考え方は非常に危険です。
短期的に客数が増えても、原価やオペレーションを圧迫すれば、利益は残りません。

特に、すでに一定の集客ができている店ほど、安易なクーポン施策は慎重に考える必要があります。

● 「目的→設計→運用」の順番がすべてです

効果が出ている店は、必ず次の順番で考えています。

・何を改善したいのか(新規客、再来店、回転率など)
・それに合った施策は何か(クーポンか、スタンプか)
・現場で無理なく回せるか

この順番を飛ばすと、どんなに見栄えの良い施策でも失敗しやすくなります。

● 数字と現場、どちらも見ない施策は続きません

販促は数字の世界ですが、実行するのは現場です。

原価率、客単価、来店頻度といった数字と、厨房・ホールの負担、その両方を見て設計しなければ、長く続けることはできません。

「続けられるかどうか」は、効果と同じくらい重要な判断基準です。

● やらない、やめる、も立派な判断です

クーポンやスタンプカードは、必ずしも全店がやるべき施策ではありません。
自店の状況によっては、「今はやらない」「一度やめてみる」という判断の方が、経営的に正しい場合もあります。

施策を減らすことが、結果的に利益や満足度を守ることにつながるケースもあります。

● 自店に合った「使い方」を選ぶことが成功の近道です

クーポンは「作るかどうか」ではなく、「誰に、いつ、何のために使うのか」を明確にして初めて意味を持ちます。
流行や他店の真似ではなく、自店の数字と現場に合った使い方を選ぶこと。

それが、クーポンやスタンプカードを“武器”に変える、最も確実な方法です。

「また来たい」と思ってもらうために、ぜひ小物選びにもこだわってみてください。
明日のランチからすぐ使える工夫ばかりですので、ぜひお店に合うものから取り入れてみてください。

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